大人気連載がリニューアル&パワーアップして帰ってきた♡

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】が今週からリニューアル。

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今週からはガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくブリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】がスタートです!

テーマ:夏休み

幼少期、祖父がセミを捕まえて、おもむろに裏側を見せてきた。
ビイビイと破裂しそうな音を発して踠いている6本の脚がグロデスクで、怖くなった私もビイビイ泣いた。
以後、セミの鳴き声を聞く度に、私はあの祖父の狂気を思い出してしまう身体になってしまった。
読者諸兄姉には物心がつく年頃の子供に昆虫の裏側は見せるとトラウマになるのでお勧めしない。

そう考えると夏休みはずっと苦手だった。
誕生日はちょうど夏休みの最中だから、学校で皆のように祝って貰えないし。
暑いのは苦手だし、セミは煩いし。
小学5年生の頃、夏休みに女子から呼び出された苦い思い出もある。
その子は「携帯代が4万円いっちゃった」と言ってヘラヘラしていられるような、今考えると恐ろしい子だった。
私はその子の呼び出しに応じて校舎裏に行くと、そこで5人の同級生の女子に囲まれた。

この経験から一つ教訓を得るなら、人からの呼び出しには応じない方がいいということだ。
きっとろくなことは起きないぞと予感はしていたものの、囲まれた瞬間に死を覚悟した。
ここで複数の女子にタコ殴りに遭って死ぬんだ、と。
葬式では「綺麗な顔してるだろ、こいつ女子に倒されて死んだんだぜ、これで」なんて馬鹿にされながら火葬されるんだ、恥ずかしい。
せめて死に方はシュワちゃんのような屈強な男とタイマンで死にたかった、と死因まで考えた小学生は少ないだろう。

むしろ喧嘩の方が幸せだったかもしれない。

しかし、実際は手など出されなかった。
囲まれたその5人から同時に告白されたのだ。
小学5年生で付き合う意義は理解できていたかは分からないけれど、好きです、付き合ってください、と関係を迫られたのだ。
今までそんな素振りも見せていなかった女子達の5回連続で来る告白のヘッドバットに目眩がして膝を地に着けたのを覚えている。
小5の私には荷の重すぎる禁断の選択を迫られて戸惑っていると、女子たちは、さあ、どの子を選ぶの?と迫ってきた。

じゃあ君で、なんて選べる訳ないし、いっそ全員でボコボコにしてくれた方が楽だった。
何故、こんな誰を選んでも辛い設問を課されなければならないのだろうか。
今から、自分の選択で4人を傷つけることになるし、どの相手が傷ついたとしても心が痛む。
それに、そもそも10歳の私には、色だ恋だのに奔走する余裕もなく、白球を追うので精一杯だった。
好きではない相手を選ぶ、その行為そのものが相手に誠意のないように思えて、どうしたらいいか戸惑った。
というか、告白と喧嘩はサシで行こなうものだろう。
5対1なんて卑怯な話だ。
思い出しただけでもムカついてきた。
ズルいだろ。

告白する側は、複数人でまとまれば一人で告白する勇気も紛れるし、フラれたとしても他に4人同じ感情を共有することができる相手がいるけれど、こっちは単身の丸腰。
なんでこんな目に遭わないといけないんだと当時も怒りに近い感情を覚えている。
そして、逃げた。

誰か1人を選ばないといけない、その不合理な状況から、走って逃げた。
偽りの1人を選んで自分に嘘をつきたくなかったし、その選択を迫られているという状況に甘んじるくらいなら、5人から嫌われる方がいい。
偽りの幸せを享受するならば、私は不幸を選ぶ。
そして何より、面と向かって5人を同時に振る勇気なんてなかった。

女子は怖い。
そう学ぶには幼すぎる気もするけれど、後に学校が始まった頃には女子達から卑怯者と呼ばれる羽目になった。
可哀想に。
お前は何も悪くないぞ、と当時の私に言ってあげたい。
だから、夏休みはいい思い出がなかったし、苦手だ。

その期間の唯一の救いは市立の図書館のエアコンが効いていて、避暑地となっていたことくらいだろう。
当時の私達は、公園の隣にあるその図書館を軽井沢と呼び、度々涼みに行っていた。
「明日、軽井沢行っちゃう?」と大人ぶって言っていたのを覚えている。
野球チームの練習が終わった後に、残ったメンバーでまた野球をして遊んでいた小学生時代。
あれはあれで幸せだったけれど、苦手な夏休みの期間で何より多幸感を感じていたのは、軽井沢で冷水機の聖水を腹一杯に飲んでいる時だった。
祖父のことも女子のことも忘れられるし。

そこでエルマーの冒険やズッコケ3人組を好きなだけ読んでいたあの瞬間が、私の中の本当の夏休みだったのかもしれない。
本当に、いい思い出はそれくらいかもしれない。
そしてまた夏が来た。
こうやって思い返すと、辛い思いや苦手な環境にいる中でも、金銭を消費せずとも多幸感を得られることはできるんだな。
時間ができたら、久しぶりに軽井沢にでも行こう。
昔の夏休みのような超大型連休など大人になるとなかなか取れないけれど、多幸感を感じるためにために冷水機にかぶりつきたいと思う。

ー完ー

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さらに来週の10日(火)には、
ティモンディ・前田裕太「売れても変わらないようにするにはどうすれば?」クレバーすぎる頭のナカ
のインタビュー後編も公開されるのでお楽しみに♡