僕のあまのじゃく#12

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

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ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくブリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:「公園」

小学校低学年の頃、近所の公園で友達とサッカーをして遊んでいると、どこからともなく現れて、皆で遊んでいた輪に入り込み、遊んでいたサッカーボールを思い切り遠くへ蹴飛ばすおじさんがいた。

彼は我々とコミュニケーションを一切とらず、サッカーをしている時だけ、時空の狭間からぬっと現れ草むらの方向に思い切り蹴飛ばしてくる。

彼のことを我々は、サッカーボールおじさんと呼んだ。
大人は、子供の遊びに混じって遊ばないという固定概念から、当初は彼は畏怖の対象であり、日頃の行いが悪い我々に神が罰を与えようと天界から遣わせた執行者ではないかという噂も流れた。

それからというもの、周囲の子供たちはポイ捨てをするどころか、落ちているゴミを積極的に拾い、提出物もきちんと期限を守るようになり、規律を重んじた模範生となった。

ワンパク小僧達の急変に、当時の先生が「急に皆どうしたのか」と問いてきたことを覚えている。
その時は全員がサッカーボールおじさんが来るから、と答えていたけれど、先生からしたら迷信や妖怪の類いだと思ったに違いない。

いや、本当に妖怪だったのかもしれないけれど。
兎にも角にも生活態度が著しく向上した健全な精神の集団と化した我々は、楽しく伸び伸びと公園で遊べるようになった。
これだけ良い子にしていれば、もう何も心配はない。

遠方へ蹴り込まれる心配がないと、新品のボールを購入した者までいた。
清々しい気持ちで皆でサッカーボールを蹴り合えるようになり、やはり他人から褒められるようなことを積極的にした後に遊ぶのは気持ち良いし、宿題をやらずに遊び呆ける後ろめたさもないと子供ながらに感じたものだった。

ありがとう、サッカーボールおじさん。
僕達はボールを蹴られることで、大切なものを彼から教えられたのかもしれない。

けれど、現実はそんなに甘くなかった。
翌日、普段と同じように公園でサッカーをしていると、無慈悲にも、またサッカーボールおじさんが現れた。
風のように現れた彼は無言で我々の輪に入り込み、メッシのような俊敏さでボールまで駆け寄って、クリスチャーノ・ロナウド並みの豪快なキックで彼方にボールを蹴り飛ばして行った。

現実とは、残酷だった。
「なんで・・・」と口にする者もいたけれど、今思うと、だいぶ早い段階でそう感じていても良かった気がする。

少年たちは考えた

そこから私達は考えた。
神は、乗り越えられない試練は与えないという。
品行方正に過ごしていても試練を与え続けられるならば、方法を模索しなければならない。

公園はみんなのもので、サッカーボールおじさんを排除することはできない。
で、あるならば、どうすれば良いか。
熱い議論を交わし、低学年の小学生だった我々なりに出した答えは、砂をパンパンに詰めた重くて硬いサッカーボールを作って、彼に蹴らせる、というものだった。

きっと彼も痛い思いをすれば、きっといなくなると当時の我々は思ったのだろう。
早速、ボールに砂をギチギチに詰め込んで、特製の鉄球のような硬さと重さを誇るサッカーボールを作った。

そのボールを囲んで、公園でワイワイと遊んでいて、サッカーボールおじさんに蹴らせるという算段だ。
さあいざ勝負!と息巻くも、なぜかそのボールを作った日からピタリと彼は公園に現れなくなった。

現実とは思った通りに事が進まない。
「なんで・・・・」と口にする者もいたけれど、公園は自分のタイミングで行きたい時に行くものなので、来なくてもまあ当然だろう。

こうして、呆気なく我々とサッカーボールおじさんの戦争は、自然消滅という形で幕を閉じた。
そんな宙ぶらりの、白でもなく黒でもない勝敗がつかないイメージを、私は公園に持っている。
彼の気持ちが、29歳になった今なら分かるかもしれない。

公園でサッカーをしている子を見かける度に、彼のことを思い出し、同じことをしたらどんな気持ちになるのだろうかと頭をよぎる。
いつか、やってしまうかもしれないかと自分が怖くなることもある。

もしかすると、あのおじさんは未来の私で、タイムスリップして来たのではないだろうか。

一人で公園のベンチに座り、子供達がサッカーをしている横でそんな風に考えているのは些か精神的に末期であるように思うけれど、流石に如何なる精神状態だったとしても知らぬ子供のサッカーボールを思い切り蹴り飛ばす大人にはならないことを願いたい。
当たり前か。

ー完ー

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