僕のあまのじゃく#54

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

▷▷これまでのコラムはコチラから◁◁

ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:デート

私は集中しすぎると外の声が聞こえなくなることがある。

特に、本を読んでいる時は、本と自分だけの世界になってしまって、話しかけられても入ってこない。

大学時代、彼女とデートをした時のことだった。

素敵なカフェがあるから行こう、と、都内の内装がキラキラしてるフォトジェニックな場所へ行ったのだけれど、そこに、あろうことか私は小説を持ち込んでしまった。
思い返せば、それが間違いだった。

敬愛している森見登美彦先生の「四畳半神話大系」という小説は悪魔的な魅力がある。
もう、その時には既に4回は読み返していたのだけれど、一度本を開いてしまうと、何度でも集中して読んでしまうのだ。

お洒落なチャイを頼んで、少しお話をした後に、ちょっと時間を持て余して、お互い携帯をいじったりする時間ができたので、なんとなく「ちょっと本でも読もうかな」と言って、本を開いたののだけれど、完全にその選択はミスだった。
森見登美彦先生の言い回しや世界観にどっぷり浸かってしまって、本を読みながら「くぅ」とか「痺れるぅ」と声が漏れていたのだ。
おそらく、本を読んでいる私に、当時の彼女は声をかけていたのだろうけれど、全く耳に入ってこなかった。

いや、もしかしたら聞こえていたのかもしれない。

それを単語として認識ができていなくて、騒音のようなものだと脳が処理してしまっていた可能性もある。
兎も角、話に対しては間違いなく生返事だったと思う。
体感では数分の間、本を読んでいただけなのだけれど、ひと段落読み終えて、本を閉じた頃には時計を見たら2時間以上が経過していた。

そして、ふと目の前を見ると、誰もいなくなっていた。

あれ、トイレにでも行ったのかな?と思ったけれど、荷物もない。
携帯を見ると「帰るね」と一言、LINEが入っていた。
そりゃないぜ。

完全に、森見先生のせいだ。
こんな魅力的な本を出している彼のせいで、”そして誰もいなくなった”状態を味わう羽目になってしまった。
責任を取ってもらわねばならない。

読者諸兄姉の想像通り、そんなことが多々あったせいで破局するまでに時間を要しなかったけれど、こればっかりは、私は悪くない。
自分がおかしなことを言っているのは自覚があるので、安心してもらいたい。

けれど、彼の小説を読むときは、時間が溶ける。
みなも森見先生の小説を開く時は覚悟した方がいい。
時と場所を選ばなければ、破局へと誘う悪魔の書にもなってしまう。
そんな魅力的な文章を、いつか書けたらいいなあ。

ー完ー

これまでのコラムは▷コチラ◁からチェック!

ティモンディ前田裕太「僕は飛行機に乗るのが怖い」【僕のあまのじゃく#53】

ティモンディ・前田裕太「売れても変わらないようにするにはどうすれば?」クレバーすぎる頭のナカ