青戸しのが乙女の憂鬱に寄り添うコラム連載!
”女の子の憂鬱に寄り添う”がテーマのarwebコラム連載「今日は乙女休みます」。毎回違うテーマに沿って紡がれる青戸しのさんの言葉にちょっと身を委ねてみて♡
(前回のコラムはこちら)突然失踪した友人、その理由は?複雑な環境からの“大人の逃げ出し方“を考察
第七回のテーマは数字にとらわれない美しさ。体重、年齢...そんな数字に縛られて息苦しい思いをしたこともあるのでは?青戸しのさんの紡ぐ言葉にちょっと身を委ねてみて。
失恋を嘆く友人「年下が好き」という言葉に...
「それで、告白したら年下が好きだって断られたんですよ」
時刻は午後8時、まだ夜も浅いというのに隣の席に座る学生時代の友人、Hが今にも泣きそうな顔でバーのマスターに愚痴をこぼしている。
山手線沿いにお気に入りのコンセプトバーがある。昭和のヒットソングが流れる店内には小さなステージとスタンドマイクがあり、様々な年代のお客さんが集まる。
失恋を嘆くHが同じ話を続けて約一時間が経過しようとしていた。
「細くて背の高い子が好みだって言うからダイエットも頑張って高い靴も履いていったのに」
友人は「ほら」と靴を指さして見せた。
途中で靴擦れしたらしく小指の部分が赤くなっていた。
メイクも服もとても可愛い。きっと彼ために試行錯誤したのだろう。前にこの店で会った時より確実に細くなった足を見て、彼のことが相当好きだったのだろうと私も胸が痛んだ。
友人を振った相手に、居合わせたマダムが納得の一言
「顔が好みじゃないとか、他に好きな人がいるとかならわかるけど"年下が好き"って何よ、そんなの努力しようがないじゃん」
今度は怒りだした友人に「そうね」と相槌を打って水を渡す。
「若いっていいですね」とマスターがカウンターに座る女性に話を振った。
目をやるとジーパンにシワひとつないTシャツを着こなした綺麗なマダムがにっこりとこちらを見て微笑んでいる。
「すみません騒がしくして」と謝ると「カラオケバーなんだから騒がしい位がちょうどいいのよ」とにこやかに答えてくれた。
上品な所作につい見とれしまう。
歳をとることに否定的な意見を持つ人もいるけど、若さと美しさは決してイコールではない。
年齢を重ねるにつれ磨かれる美しさもあると、改めて思った。
彼女は「歳をとっても失恋で泣くことだってあるわ」と優しい表情のままマスターに釘をさした。完全にとばっちりを受けたマスターが口を開く前に
「お姉さんくらい綺麗な方でも失恋するんですか」と友人が食い気味に言った。
「お姉さんって年齢じゃないけど、もちろんあるわ」
「うっそだー!」
マスターと友人の声が被る。私も心の中で同じことを思ったので、やっぱり誰が見てもそう思うのだろう。
「今日告白してくる!」と息巻いていた友人から大量の不在着信が入っていた時は肝を冷やしたが、楽しそうに会話をする姿を見て、ひとまず安心した。
さっきと同じ話を友人から一通り聞き終えた女性は「そうねぇ」と残ったお酒を飲み干して
「あまり詳しくは分からないけど、人を見る時に数字はあまり関係ないのよ、彼にも考えがあったのかもしれないけど、断り方にセンスがなかったのね」
と酔っ払いには少し難しいことを言った。
「似合った」よりも「その人に合った」美しさを求めて
数字はとても分かりやすい美の指標ではある。
年齢、体重、身長はもちろん、顔のパーツだって黄金比と呼ばれる数字が存在する。
ただ、私の家に体重計は無い。変動する数字を見て一喜一憂していた頃もあるけど憂の割合が大きすぎて捨ててしまった。毎朝下着姿で鏡を見る方がよっぽど健康的なモチベーションになると気がついたからだ。
人それぞれ美の価値観が違うように、なりたい自分になるまでの道のりもみんな違う。
理想を捨てるのは悲しすぎるけど、理想と現実に折り合いをつけていくことは必要だ。
似合った、ではなくその人に合った美しさがあるのだ。
年下が好き、と言って友人を振った彼の本心は分からない。もしかしたら別の理由があったのかもしれないけど、失恋した夜でも綺麗に伸びた友人の背筋を見て彼はもったいない事をしたなと思った。
嫌な顔ひとつせずに話を聞いてくれた女性も、
「今日は付き合ってくれてありがとう」と屈託のない笑顔でお礼を言う友人も間違いなく愛らしく、美しいと私は声を大にして言いたい。
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