僕のあまのじゃく#60
ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。
ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡
前田裕太(まえだ・ゆうた)
PROFILE:1992年8月25日、神奈川出身。グレープカンパニー所属のお笑い芸人ティモンディのツッコミ、ネタ作り担当。愛媛県の済美高校野球部に所属した同級生・高岸宏行が相方で、2015年1月に結成。2人の野球経験を活かした『ティモンディベースボールTV』の登録者数は23万超え。ar web連載『僕のあまのじゃく』では、フリースタイルエッセイを毎週お届け中。
テーマ:窓
私は家に鍵をかけない。
何故鍵をかけないのか、という疑問を持つ人もいるだろう。
理由はシンプル。鍵を無くすからだ。
高校生の頃の、寮に住んでいた時は、部屋に鍵をかけた後、寮母さんに部屋の鍵を託して寮から出るので、鍵を失くすという概念がなかった。
ただ、大学生となり、一人暮らしをするようになってからというもの、数多の鍵を失くしてきた。
失くした鍵を溶かして1つにまとめれば、砲丸くらいの鉄の塊になる程の量を紛失している。
自慢ではないけれど、鍵なんて、いくらでも失くせる自信がある、そんな私からしてみれば、家は鍵をかけなければ、鍵を外に持っていく心配も必要もないし、持っていかなければ失くさない。
逆にいえば、一度、鍵を閉めて出かけてしまうと、出先で鍵を失くしたら最後、家に入れなくなってしまう。
それだったら、何故鍵を閉める必要があるのだろうか。
他者を拒絶する施錠は、私のような物失く師の前では、在住者すら拒む鉄壁と化してしまうのだ。
鍵が僕を超人にさせたのだ
高円寺のボロアパートに住んでいた時の話だ。
鍵を失くして、家に入れずに呆然としたことがあった。
鍵を失くすと、どうしようもない。
鍵の救急車なるものを呼ぼうにもお金がないし、残念ながら、ピッキングの技術もない。
1時間、ただ入ることもできない密室の前で手も足も出ない状態だった。
そこで思い出す。
窓には鍵をかけていなかったことを。
もう、その時の私に残された道は、窓から侵入するしかなかった。
ただ、私が住んでいた部屋はアパートの2階。
窓から侵入するには、壁をよじ登り、鍵は閉まっていないまでも、閉めている窓を開け、網戸も開けて、中に侵入する必要がある。
アパートの外壁は、ほんの少ししか凹凸がなく、ボルダリングの選手でも指をかけるのが困難であろう難易度だった。
ただ、登るしかない。
このまま家に帰れなければ、野宿をしなければならないし、舞台衣装も部屋の中にあるので、次の日のライブも私服で出なければならなくなる。
その気持ちが、私を超人にさせた。
垂直の、凹凸のない外壁を、ほぼ根性のみで、登ったのだ。
2,3メートルのぼり、片手で全ての体重を支えながら、もう片方の手で窓を開ける。
リアルスパイダーマンだ。
そのまま、網戸も開け、無事に帰宅するに至った。
私に悪の心があれば、いかなる防犯を施した豪邸でも、きっと侵入することができるだろう。
運が良かったのは、自分の部屋に帰宅するだけだとはいえ、壁を登って部屋に侵入している様を誰かに目撃されなかったことだ。
空き巣を思われても仕方ない。
そんなことを、数回も繰り返して、ようやく、鍵を閉めない、という打開策を見出したのだ。
今は、その高円寺のボロアパートから引っ越しして、マンションに居住地を変えたので、もはや窓から侵入するという手段も講じれなくなってしまった。
鍵失くしたらどうしたらいいんだよ、全く。
マンションに入るのにも、鍵がなければエントランスの扉が開かないので、とうとう鍵を持っていかなければ、エントランスの中にすら入れなくなってしまったのだ。
だから、今はもう仕方なく鍵を持って、出かけている。
どうせ出かけるなら鍵を閉めるか、と最近では家の施錠もするようになったのだけれど、失くしてしまうのではないか、と気が気ではない。
GPSを鍵につけているけれど、きっと失くすまで時間の問題だろう。
その時のために、一応、窓はこれかも開けておこうと思う。
ー完ー
ティモンディ前田裕太「ガラスにはなれない僕」【僕のあまのじゃく#59】
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