僕のあまのじゃく#84

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

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ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:転勤

「もしもお笑い芸人になっていなかったら、何をしていますか?」という質問をされることがある。
私は、法曹界で働くために法律事務所でインターンをしたりしながら大学生活を過ごしていたし、大学卒業後は明治の法科大学院に進学したので、普通に考えれば、弁護士や司法書士などの資格を取得して、今頃社会の益となる人材になっていただろう、と思う。

30歳になった今、もし芸人になっていなかったら、アソシエイトを何人か雇ってバリバリと活躍している弁護士になっていたかもしれない。
きっと、世田谷区あたりに一軒家を購入して、大きめのかっこ良さそうな車に乗っていることだろう。
大手法律事務所時代の同僚と結婚して、縁があれば子供もいるかもしれない。

絵に描いたような幸せじゃないか。
答え終わると、そんなエリート仕事マンではなく、仕事1つ1つで毎回一憂している情けない男だという現実に戻ってきた。
そうだ、そんな未来ではなかったんだ。
なんてことを考えさせるんだよ、インタビュアーさんよ。

ただ、これはあくまでも理想の話。
もしも弁護士にもなれず、法曹界で働く適正無しだった場合はどうだろうか。

おそらく、大学時代から長年続けていた塾講師のアルバイトの経験を活かして、学習塾に就職をし、塾の講師として働いていただろう。

子供たちに勉強を教えるのは、奥が深くやりがいがあって楽しいし。
ただ、芸人や弁護士などの個人事業主と異なって、塾の講師として会社に雇用されて働く場合、ちょっと辛そうだなと思うことがある。

そのうちの1つが、転勤だ。
なんであんな制度があるんだろう。
都内で働いていた人が、会社の事情で遠方へ転勤してしまう事象を多く見てきた。

その土地で雇用が必要になったのであれば、その土地で人材を募集し、育てれば良いのに。
社員にも人生があると言うのに、会社の都合で居住地まで移転させるなんて、なんて勝手なんだ。

一体、人をなんだと思っているんだ、全く。

怒り心頭である。

塾講師のアルバイトをしていた時、社員の人が少し遠い勤務地へ転勤になった。
お門違いだとは分かっていながらも、その社員の人に、転勤に対しての怒りと疑問をぶつけたことがある。

その時、その社員の人は「仕方ないことだよ」と諦観めいた表情で言っていたのを覚えている。
会社曰く、各地にある校舎で人材を育成するだけの経済的余裕が、会社にはないんだよ、だなんて説得されて転勤を受諾したらしい。

許すまじ。
世の中の社長は(勝手なイメージだけれど)黒テカテカの高級外車を乗り回し、不必要に高い酒を煽り飲んでいる人が多い気がする。
別に知り合いがいる訳ではないから、具体的なイメージがある訳ではないのだけれど。
会社のトップとして収入が一番多いのは当然なのかもしれないけれど、一社員の人生を左右させるような選択を迫るほど、本当に会社は圧迫されているのだろうか、と疑問に思う。

仕方なく、といった雰囲気で転勤していった社員さんを、かわいそうに、と思って見送った。
慣れない土地にいきなり行く羽目になって、会社員というのは転勤を迫られる場合があるなんて辛いものだろう、と思った。

最近、その社員さんから、久しぶりに連絡がきた。

どうやら、近いうちに結婚するらしく、その報告をする旨の連絡だった。

話を聞くと、彼は転勤先でパートナーとなる御令嬢と運命的な出会いをして、結婚に至ったらしい。
その御令嬢とは転勤がなければ出会っていなかった訳で、彼にとっても、転勤が人生を変えてくれて良かった、と言っていた。

なんだよ、悪いことだけじゃないのかよ。
なんなら転勤して良かった、と思うほどのことが起きるのかよ。

私は仕事上、転勤なんてことはないのだけれど、望んでなくとも環境が変わり人生がより良くなる場合があることがあるのだな、ということを知ることができた。
一概に転勤をすることになったから可哀想だ、と思うのも横暴だったのかもしれない。
視野は広く物事を考えておきたいものだ。

ー完ー

ティモンディ前田裕太「ゾンビからの卒業」【僕のあまのじゃく#83】

ティモンディ・前田裕太「売れても変わらないようにするにはどうすれば?」クレバーすぎる頭のナカ