小説『明け方の若者たち』『夜行秘密』が大ヒット中のカツセマサヒコさんが久しぶりにarwebに降臨！ みなさんの「終わってしまった恋」にそっと寄り添うコラムをお届けします。
カツセマサヒコ『元カレの今カノのアカウント見つけて毎日チェックしてるような日々だから成長しないのよ』
心に空いた穴は、大体が元恋人の形をしている
たとえば一つの恋が終わったとします。
その終わり方にもいろんな種類があって、「フった」「フラれた」のどちらかに要約しようとすると、「そんなシンプルな話じゃないんだけどなあ」と、首を傾げたくなったりします。
好きだったまま別れた。好きだったけど諦めた。好きになろうと努力したけどダメだった。付き合ってみたらクズだった。将来の考え方が一致しなかった。体の相性が合わなくなった。大切にできなくなった。もっと大切にしたい人ができた。
どんな理由や経緯で、その恋に終わりが訪れたのかはわかりません。ただ、いずれにしてもその「別れ」には、強い決意と覚悟が必要だったはずです。
もう少し辛抱して一緒にいてもいいんじゃないか？ お互いに歩み寄ることができれば、恋は再燃するんじゃないか？ 二番目でもいいと言えば、もう少しそばに置いてもらえるんじゃないか？ 今からでも私たちは、やり直せるんじゃないか？
そんな淡い期待が頭をよぎると、ついつい「さよなら」を先延ばししたくなるものです。それでも別れられたということは、きっとあなたは、甘い誘惑を断ち切ることができたということ。大きな喪失感と疲労感に襲われて、身も心も荒れ果てたことでしょう。苦しい決断、本当にお疲れさまでした。
「失恋に効く回復薬は、」
さて、終わりは始まり、とはよく言ったもので、別れがあるからこそ、新たな出会いも生まれるわけです。誰かと付き合っていたのなら、きっとその期間、自分の時間の何割かを相手にあげていたことでしょう。今日からは、その時間も全て、あなたのもの。あなたの好きなように生きていいし、誰と出会ってもいい。
あ、この人の顔タイプだな、とか、連絡くれてたアイツに会ってみるかとか、そうした軽率な何かの始まりを楽しむことだって、なんの後ろめたさもなくできるのです。
とはいえ、「恋人がいる自分」という重みを失うと、きっとソワソワするし、心に空いた穴の形は、元恋人のシルエットそのものだったりするでしょう。焦ったあなたはつい過去の温もりを取り戻そうとしてしまうけれど、できるならば、毒素を体から抜くように、それにも少しずつ慣れていってもらえればと思います。
失恋に効く回復薬は、基本的には「時間」だけです。でもこの「時間」は、たくさんの映画を観たり、たくさんの物語に触れたり、たくさんの音楽を聴いたり、たくさん友人と話したり、新たな恋を見つけたりすることで、早送りすることができます。いろんなことを試して、たまに昔の二人を思い出して切なくなったりしながらも、徐々に過去を思い出に変えて、前を向いて生きてもらえたら嬉しいです。次の恋こそ、過去最高を更新できますように。
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