僕のあまのじゃく#17
ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。
ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくブリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡
前田裕太(まえだ・ゆうた)
PROFILE:1992年8月25日、神奈川出身。グレープカンパニー所属のお笑い芸人ティモンディのツッコミ、ネタ作り担当。愛媛県の済美高校野球部に所属した同級生・高岸宏行が相方で、2015年1月に結成。2人の野球経験を活かした『ティモンディベースボールTV』の登録者数は23万超え。ar web連載『僕のあまのじゃく』では、フリースタイルエッセイを毎週お届け中。
テーマ:「マンホール」
大学二回生の冬に、1つ歳下の御令嬢とデートをした。
バイト先のその子と、話の流れで美術館に行くために横浜へ行くことになったのだけれど、その日は、信じられないくらいの豪雨だった。
信じられないほどの雨が降っていたので中止にしても良かったのだけれど、お互いの大学が休みでバイトもない日はその日しかなく、協議の結果、延期にしたら次いつ日程を合わせられるか分からなかったため強行することになった。
外に出ると、微塵もデートが盛り上がらぬようにと神が土砂降りにしたと思うほどに暴れ振り、海外の水圧の弱いシャワーに当たった方がマシだと感じるくらいの雨量だった。
待ち合わせ場所に二人がついた頃には、お互い雨で濡れて服の色が1トーン暗くなってしまった程だった。
こんなはずではなかったという顔をしていたのは私だけではなかった。
せめてこんな天気だから会話くらいは盛り上がろうと奮起するも、雨音が大きすぎて声がかき消されて届かない。
これ以下はない劣勢からのスタートで口火を切ったデートだったけれど、美術館へ辿り着く前にさらに不運が続く。
マンホールは人となりを映す鏡
その子が、マンホールに滑って転んだ。
土砂降りの道路でツルッと足元が滑ってひっくり返り、背中から地面に打ちつけられたその様子は、見えない相手にバックドロップをお見舞いされたようだった。
雨の日のマンホールはすこぶる滑る。
派手にアスファルトへ身体を打ちつけた彼女を心配して大丈夫かと声をかけたのだけれど、彼女は「最悪」と漏らた。
今まで雨音で全然声が聞こえなかったのに、こういう聞かなくてもいいような言葉って嫌でも耳に入っちゃうんだよな。
僕も同様の気持ちだよ、と思ったけれど口にしなかった私は紳士と言わざるを得ない。
久しいデートに張り切っていたけれど、マンホールのせいで序盤から酷い有様だった。
その彼女を滑らせたマンホールを見ると、普段よく見るマンホールとは違い、YOKOHAMAと書かれて何やら絵が描かれた、デザイン性の高いマンホールだったのを覚えている。
物珍しさに「横浜ってマンホールもオシャレだね」と口にしたけれど、「それどころじゃない」と不機嫌そうな返事が返ってきた。
身内が死んだような空気の中、美術館に着いて館内を見て周り、延期にしておけば良かったと思いながら帰路についたのだけれど、帰っている途中、私もマンホールで滑ってこけた。
恥ずかしさでそのままマンホールの中に潜ってしまいたいと思ったけれど、そのマンホールを見ると、先ほどのYOKOHAMAの文字と、また違う柄のマンホールの絵が描かれたいた。
「見て、さっきと違う絵が描いてある」と声に出すと彼女は「それどころじゃない」と一蹴した。
人は厳しい環境に立たされた時こそ、その人の人間性が現れる。
マンホールは、人の入る穴ではあるけれど、雨に濡れると人の本性を現す鏡にもなるかもしれない。
この御令嬢とはその後、逢瀬の機会は無かったけれど、パプニングが起きるたびに、あのように冷たく対応をされるのであれば、懇ろな関係に至らなくて良かったなあと思う。
少なくともお互いがしんどい環境にある時こそ、笑って「この雨酷いねぇ」と言えるような御令嬢でなければ私のような歪んだ人格を持った人間とはうまくやっていけないから。
読者諸兄姉にもし意中の相手がいれば、濡れたマンホールの上で滑らせて人間性を見るのが良い。
ー完ー
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