LGBTQ について映画から考えてみた
"同性愛"や"トランスジェンダー"などの性の多様性を指す「LGBTQ」(※)。
言葉としての認識はあるものの、関心を持っていたり、身近に感じている人はそう多くないのでは?
そこで、映画を通していろんな方の意見を聞きながら、arなりに考えてみたいと思います。
愛や性について、自分の人生について、改めて振り返るきっかけになるかもしれません。
今回お話をお聞きしたのは、メイクアップアーティストの小椋ケンイチさん。
※様々な表現の仕方がありますが、この企画ではLGBTQで統一します。
1968年9月6日生まれ、長野県出身。メイクアップアーティスト。400名以上の女優やモデルのヘアメイクを手掛ける。おぐねぇーの愛称でテレビや雑誌に出演する他、ビューティの講演会などマルチに活躍。自身がプロデュースした筋膜リリースのプライベートサロン「SALON DE SMILON」を昨年11月にオープン。
▼小椋ケンイチさんセレクトの映画
1:『モーリス』
同性愛が禁断とされた1880年代イギリスで真実の愛を知った青年の心が揺れ動く
2:『Summer of 85』
彼しか見えない甘くて苦しい10代の初恋。出会って6週間後に永遠の別れが訪れる
恋に疲れたら、不器用な初恋のストーリーで傷を癒して
「きっとar読者の世代は、美しいボーイズラブからLGBTQをのぞき見してくれる子が多いと思うんだけど、『モーリス』はその原点とも言える映画じゃないかな。まだ同性愛の背徳感が強烈に残っていた80年代のイギリスで、けがれのない男の子同士が恋をするんです。とにかく、物語も映像も美しい! ジャケット写真は草原に寝転んだ二人が別の方向を見つめていて、言葉にならないすべてを表現している気がします。公開時は日本もまだオープンにできるような時代ではなかったから、僕自身も隠していた男性への気持ちを、優しく肯定してもらえたような作品でした。異性愛より一抹の切なさや葛藤が重いのは、これから先も引き継がれるテーマですよね。
今の時代、男同士の恋愛をコメディにしようと思えばいくらでもできるんですよ。僕たちがテレビに出始めた15年前に、オネェという明るいイメージが世の中に広まったんですけど、日本のLGBTQ作品はまだその段階だと思っていて。みんなの好奇心をそそるエンタメもいいけど、第2フェーズではもっと深くまで描いた映画やドラマが生まれるといいですね。
2021年の夏に公開された『Summer of 85』は、ひと夏の青春をぎゅっと詰め込んだ、フランスの男の子たちの恋愛物語。サウンドやファッション、カルチャーが全盛だった1985年の時代背景を体感できるのも魅力。ジャックナイフのようなクシで髪をとかしたりする、ちょっとした小道具がおしゃれなんですよ。アナログな世界観は懐かしくもファンタジーに感じるから、ボーイズラブに興味のない人も見応え十分です。
2作品とも、初恋の高ぶりと切なさ、闇すらも美しく描いているのがお見事。無骨で、へたくそで、すごく苦しい体験だったけど、永遠に自分の心に刻みたかった。そんな主人公たちの想いは、多くの人が経験しているんじゃないかと思います。ぜひ両方観て、過去から現在のLGBTQ映画の流れを感じながら、性別や時を超えて伝えられるメッセージを受け取ってください。
それと、恋に疲れた時にも映画の力を借りてみてください。「もう一回純粋に、幸せになってみようかな」と、やる気が出るはずです。今はスマホで文字を送るだけでお別れできる時代だけど、やっぱり10代20代のうちは、苦しむのを恐れずどんどん突き進んでほしいなと思います。大人になるとイヤでも駆け引きのオンパレードだし(笑)、誇れる傷をつくることは成長につながるから。僕なんて、よく出血多量で死ななかったなってくらいボロボロになったけど、今はぜーんぶいい思い出として引き出しにしまってあります(笑)。たまにこういう映画を観てその引き出しをチラッと開けると、傷が浄化されるんですよ♥」
Composition:Kamakura Hiyoko