僕のあまのじゃく#26

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

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ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:「爪」

私は爪の無駄に伸びた部分を爪切りを使わずに握力でむしってしまう癖がある。
いちいち爪切りを持ってきてティッシュをひき、その上でパチパチと爪を切ってもティッシュの彼方に爪の破片は飛んでいってしまう。

それだったら、持ち前の握力で爪の伸びたいらない部分を、ピッとむしった方が飛び散らずにゴミ箱へ捨てられるし、爪切りを出してくる、という一手間を省けるので楽に感じる。
おかしなことを言っている自覚はある。

時折裂き方を間違えてびっくりするくらいの深爪になってしまうこともあるし、仕上がりがガタガタになってしまうこともザラにある。
やめておいた方がいいのは百も承知だけれど、日頃の習慣として定着してしまったため、なかなか爪切りを出すという選択をしないし、無意識で爪を裂いて剥がしてしまっている時もある。

ある番組でオードリーさんと一緒になった時のことだった。
彼らのラジオを聴いていたら若林さんが、7粒のヒマワリの種を収穫したこと、その種を誰かにあげようと思っていることを話していた。
ちょうどそのラジオの放送後すぐにご一緒する機会があったので、収録が終わった後、帰りに楽屋挨拶をするついでにヒマワリの種下さいよ!とかけることにした。

仕事が終わり、若林さんの楽屋にノックをして入ってみたのだけれど、
自分でも思ってもみない現象が身体に起きた。
楽屋に入って若林さんを目の前にしたら「ヒマワリの種をください」という簡単な一言が全然出てこなくなってしまった。

お疲れ様です、今日はありがとうございました、と声にしてみたものの、それ以降、頭では分かっているものの、口から”ヒマワリ”という言葉が奥底に沈んでしまってなかなか声にならない。
番組内では普通に話出来ていたのに。

一世一代の大告白

思い返してみると、私の人生において「○○をください!」と人に頼んだことがなかった。
欲しいものがあるのなら自分の努力で掴み取れ!と昔から強く思っていたし、人に頼ること、お願いすることに慣れていなかった。

ここまで自分が、誰かに要望を伝えることに不慣れだったとは思ってもいなかった。
結果として「あの、もし他にあげる人がいなかったらいいんですけど・・・」モジモジしながら言葉に詰まっていると、若林さんの顔に?マークがくっきりと出ていた。

人に何かお願いをするのは恥ずかしいことだという意識がどこかにあるのだろう。
気がつくと、右手の親指の爪を左手でむしっていた。
これは先輩とすると、とても怖かっただろう。

楽屋に後輩が訪れてきて、モジモジしながら言葉に詰まって爪をむしっているのだ。

一刻も早く要件を済ませてこの場を去り、これ以上の醜態を晒す訳にはいかない。
「ひ、ひ、ヒマワリの種を渡す相手がいなければ・・・・」と絞り出すように言うと「あ、ラジオ聴いてくれたんだ、ありがとう」と話の意図を汲んで話を続けてくれた。

なんだか、他人に告白をしているような気恥ずかしさがあった。
「も、も、貰えないでしょうか」ともはや意識も朦朧としかけながらお願いをしたのだけれど、自分でもなんでここまでヒマワリの種1つをください!とお願いすることに緊張しているのか意味は分からなかった。
流石に他人に甘え慣れてなさすぎる。

若林さんは「今日持ってきてないから、今度持ってくるよ」と快諾してくれたものの、私はヒマワリの種を手に入れることが約束されたことよりも、先輩に気持ちの悪い姿を見せてしまい、結果としてマイナス収支に終わってしまったような気がして気分は最悪だった。

今後こんな思いをしないためにも、まずは無意識に爪をむしらないよう意識的に爪を爪切りで切り、どんな先輩達にも変な後輩だと思われないようにしたい。

案の定、未だヒマワリの種は私の手には届いていない。
あんな様子のおかしい人間に物をあげたら何をしでかすか分からないと思うのも当然ではあるけれど、ふとした拍子に若林さんが思い出してヒマワリの種を渡してくれることを願いたい。

そして、あの時の私の醜態だけ忘れてもらいたい。

ー完ー

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