僕のあまのじゃく#35

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

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ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:「旅行」

私は休みがあれば、月に1度は旅行に行くことにしている。
百聞は一見にしかずと言うので、どうせ百聞したって一見には及ばないのであれば、見聞きする努力を惜しまず行うよりも、一度足を運んで一見することで百聞分を味わった方が効率が良いと思ったからだ。

旅行に行って何かが変わるのかと言われたら分からないけれど、ことわざ通りであるならば、百聞=一見、なんなら百聞<一見という式が成り立つため、一見すれば、きっと百聞分の何かが自分の中に貯まっていくはずである。

だから、月に一見をしていれば、年間で1200聞することになる計算になる。
1200聞した私は一体どうなってしまうのだろうか、今から楽しみで仕方ない。
ただ、私は基本的に詰め詰めのスケジュールが苦手で、旅行も出来れば一泊したい。
気を休めるための旅行なのに、タスクをこなすことで体力を磨耗し、休日に疲れてしまうことを避けるために、宿をとってゆっくり過ごすのが理想なのだ。

ただ、そんなことを言っていたらいつまで経っても旅行なんて出来ないし、言い訳ばかりして部屋でゴロゴロする日々から脱することも出来ない。
今までの自分を変えるために、この性格をまずどうにかしなければ、百聞ばかりで頭でっかりの人間になってしまう。もう手遅れかもしれないけれど。
その日は時間があったので、一眼レフ片手に新幹線へ乗り込んで日帰りの旅行に繰り出すことにした。

私は兎にも角にも喫茶店が好きで、カフェからカフェのハシゴをしながら普段の執筆をしたりしている。
その中でも、名古屋に気になり続けていた喫茶店があった。
「シヤチル」という喫茶店である。
ここのクリームソーダが、絶品らしく、それに加えて他にもサンドウィッチも美味しいと聞いていたので、これは行くしかないと、シヤチルに行くために名古屋へ向かった。

いざ、単身名古屋へ

約2時間ほどで着いた店内は、もう女性でいっぱいだった。
なんだか、いわゆるインスタ映えするような素敵な店内で、「入った瞬間は、ここはお前のような芋くさい人間がくる場所じゃねぇ」と言われているような気がしたけれど、私は単身名古屋に乗り込んできた身。
ここで引き下がる訳にはいかないと、東京を代表したつもりで店内に居座った。

都内にも素敵なカフェは幾つもあるけれど、名古屋のカフェ。
どんなもんか見せてもらおうじゃねぇか、と普段思わないような江戸っ子が私の中で声をあげた。
神奈川の相模原という田舎出身の私が東京出身顔するのも多方面から怒られそうだけれど、小心者な私の自分を守るための江戸っ子であって、このまま手ぶらで名古屋から帰る訳にはいかないので多少の乱暴な言葉使いは大目に見てほしい。

そんな気押される店内で、メロンソーダとたまごサンドを頼んだ。
これが本当に美味しかった。
もう、本当に美味しいというのは、こういうことを言うのだろうな、という美味しさだった。
いつも落ちてるものも拾って食べていた幼少期の私に、世の中にはこんな美味しいものがあるのだから、つつじの花の蜜ばっか吸って満足してるんじゃないよ、と伝えたいくらいの美味しさ。

たまごサンドは分厚くてパンにカラシが塗ってあって、食べ応えもあり、メロンソーダは青色の綺麗な色をしていて最高だった。
その頃には、居心地悪いなあ、と内心思っていた小さなリトル前田はいなくなっていた。
私の江戸っ子も、これは参ったと白旗を振っていた。
周囲はキラキラとした女性ばかりなのに、最終的に、追加でメルトサンドに、カフェオレフラペチーノに、ミートボールスパゲッティまで頼んでしまった。

オシャレなカフェでフードファイトすることになるとは思っていなかったし、周囲の人間は、こいつ一人で何人前の食べ物を頼むんだ、と畏怖の目を向けていたけれど、もうそんなものは関係がなかった。
そこに美味しいものがあって、それを美味しいと思える幸せな時間だけがあったのだ。
結果として、思い切って名古屋に弾丸旅行してよかった。
シヤチルは美味しいと、三聞くらいしたことあったけれど、間違いなく一見してみたら百聞以上の経験ができたからだ。
私は性格上、頭でっかちになりがちなので、これからも知った気にならないで一見しに旅行へ行こうと思う。

ー完ー

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