僕のあまのじゃく#53

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

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ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:飛行機

仕事で、よく飛行機に乗る。

その度に手荷物検査をするのだけれど、これが毎回緊張する。

新幹線も電車も、手荷物検査なんてしないのに、赤外線だかX線だか分からないけれど、中身を見通せるスケスケビームを手荷物に当てることで、検査員に手荷物の全てを確認されるのも、なんだか恥ずかしい。

あ、こいつ、北海道に行くのに任天堂Switch持っていくんだ、とか、鞄の底に、昔バラ撒いてしまったフリスクが数粒残っているじゃん、とか、そんなことを思われてしまうのでは無いかと思って、飛行機に乗る前は鞄の中身を綺麗にするし、持っていくものも、普段より注意してしまう。

それに、検査に引っかかってしまったら、なんだか危険人物認定されてしまったような気がして、怖い。

昔、先輩芸人の本多スイミングスクールさんと一緒に飛行機に乗って、仕事に行ったことがある。

私は手荷物検査をそのままクリアして、後から続く本多さんを待っていたのだけれど、本多さんは手荷物検査に引っかかった。

本多さんの手荷物を検査員が確認すると、検査員の人達が少し話し合った後、本多さんに対して「手荷物確認させてもらってもいいですか?」と聞いていた。

検査員の目は、気のせいかもしれないけれど、不審者を見るような目だった。

確かに、本多さんは変人だ。

もう10年以上、水泳ネタだけをずっと舞台上でお客さんに向けてやり続けていることを考えると、もうそれだけで検査に引っかかってしまってもおかしくない。

人間検査機にかけたなら、真っ先に引っかかるだろう。

こんな変人は飛行機に乗せない方がいい、と検査員が判断したなら、私も大いに同意するところなのだけれど、今回引っかかったのは、手荷物検査だ。

何か危ないものを持ってきたと疑われているのだろうけれど、流石に飛行機をジャックするような度胸があるとは思えないし、危険なものを持ち込もうとしているとは思えない。

一体何で手荷物検査に引っかかったのか、疑問に思っていると、本多さんは検査員の人に「荷物の中に、大きめの金属のものありますよね、確認させてもらっていいですか」と言われていた。

金属で作られたものは多々あれど、そんな確認しないと分からないようなものを本多さんが持っているだろうか。

もし、刃物類のようなものを持っているのであれば、当然、そんなものは機内に持ち込ませる訳にはいかない。
没収すべきだ。

いや、どうだろう。

よくよく考えてみれば、本多さんなら、そういうことをやりかねないかもしれない、と思えてきた。

本多さんは、検査員の人の前で鞄を開けて、手で色々と探ったのち、「大きめの金属ってこれですか?」と言って、”蛇口のようなもの”を取り出した。

本多さんが取り出したのは、ただ、普通の蛇口ではなかった。

手荷物から出てきたそれは、プールの、目を洗う時にしか見ない、蛇口の先がTの形になっているものだった。

「これ、プールの目を洗う時の蛇口です」と本多さんは検査員に説明していた。

怖かった。

刃物を持っている人よりも、プールの目を洗う時の蛇口を、単体で持ち歩いている人の方が、私にはよほど危険人物に思えた。

こいつを飛行機に乗せたら、何をしでかすか分からない。

「そうですか、一応、もう一度検査に通していいですか」と検査員は、プールの目を洗う時の蛇口を、もう一度、検査機に通した。

何を、もう一度検査する必要があるのだろうか。

検査員が数人集まって話した結果、大丈夫です、と言って本多さんに返していた。

何も大丈夫ではない。

その後、「前田くんお待たせ」と私の方へ来たのだけれど、なんだか他の人たちや検査員の人たちに、この人と知り合いだと思われたくなくて、無視してしまった。

けれど、もしかすると、私ももしかすると、他の人から見たらおかしい、と思われるような、変なものを持ち歩いているかもしれない。

私にとっての、プールの目を洗う時の蛇口、があったとしたら、検査に引っかかると恥ずかしいので、空港には持って行かないように気をつけようと思う。

ー完ー

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