僕のあまのじゃく#69

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

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ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:恋

人が恋に落ちた瞬間を見たことがある。

高校を卒業し、大学生になった頃の話だ。
当時の私は、他の書生達が華のキャンパスライフを謳歌すべく能天気に日々を過ごし、酒に飲まれ、気品と単位を限りなくギリギリまで落とし続けるエリート堕落コースを邁進している姿を目の当たりにして、碌な人間がいないと辟易していた。

そんな連中と一緒にはなりたくないと避けていたら、入学して数ヶ月、誰一人として友達ができなかったのだけれど、まあ、大学なんて友達を作りにきた訳ではないしいいか。
なんて思っていた中、塾の講師のアルバイトをしていたら、違う大学に通っている同学年の、私と同じような思想を持った男が入ってきた。

名を柴田という。

大学時代に出来た数少ない友人の1人だ。

彼とはすぐに意気投合したけれど、彼と私の違いは、自分と似た人間のコミュニティをすぐに見つけたので、大学にも居場所があったという点だった。

彼と交友を深め、そのうち私は彼の大学のゼミに顔を出したり、彼の大学のソフトボール大会にも助っ人として参加することになるのだけれど、大学のコミュニティの中にいる彼は、普段2人でいる時の彼と様子が違った。

本当に若干の違いなのだけれど、他の友人がいる時の彼は心のジャケットのようなものを羽織っていて、背筋が伸びているように感じたのだ。

2人でいる時はそのジャケットを脱いで、少しラフな雰囲気になる。

その理由はすぐに分かった。

彼は、大学の中に気になっている人がいるのだ。

彼の研究室に顔を出したとき、さらに加えて、ある先輩がいた時に、そのジャケットを羽織っていることが多い。

少し他者からの目を意識した上で、ほんの少し、よく思われたいと思うエッセンスを感じる。

柴田はおそらく、その先輩のことが好きなのだ。

だが、彼に「好きな人いるでしょ」と聞くと、「いや、勉強でそれどころじゃないよ」と返ってきた。

本当に内心はそうだったのかもしれない。

けれど、外から見ると、気になっているだろうな、というのは透けて見えていた。

私は性格が悪いので、ここで攻めの手を緩める人間ではない。

「あの先輩といるとき、なんか意識してるよね」と責めると、そうかなあ、と曖昧な返事が返ってくる。

「好きなんじゃない?」と聞くと、私の言ったことを受け止めて、自分の中で消化し、きちんと意見を出すのが彼の良いところで、「あーうん」とか「どうだろう」とか思考しながら口に出していた。

「そんなことねぇよ」で片付けずに、ちゃんと一度思案する、私はこういう真っ直ぐに人の意見を聞けるところが柴田の好きなところの1つであって、その素直さを見習いたい。

少し経って彼から「うん、そうかも、好きなのかも」と返ってきた。
「言われなければ気づかなかった」と。

要は無自覚だったのだ。

それ以降、柴田のゼミに顔を出した時、先輩がいると、前よりも楽しそうで、ジャケットに加えてネクタイまで締めちゃって、随分と着飾っていた。
先輩と話している時も、前よりも楽しく感じるようになったそうだ。
これもきっと自覚したからなのだろうと思った。

恋の正体は、自覚することなのだと私は思う。

その先輩とどうなったのか、そこまで問い詰めるほど野暮な男ではないので、恋の行方はどうなったのか分からない。

ただ、自覚したからこそ、無自覚だった頃と比べて、より楽しいと思える日々ができたのだと思う。

なんだか、こう書いていると、自分は無自覚に色々と見過ごしてしまっているものがあるのではないかと思う。

本当に何もないだけなのかもしれないけれど、もし万が一に、その予兆が自分の中にあったら、見逃さず、自覚してその時を楽しみたいと思う。

ー完ー

ティモンディ前田裕太「記念日は呪いだ」【僕のあまのじゃく#68】

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