僕のあまのじゃく#79
ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。
ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡
前田裕太(まえだ・ゆうた)
PROFILE:1992年8月25日、神奈川出身。グレープカンパニー所属のお笑い芸人ティモンディのツッコミ、ネタ作り担当。愛媛県の済美高校野球部に所属した同級生・高岸宏行が相方で、2015年1月に結成。2人の野球経験を活かした『ティモンディベースボールTV』の登録者数は23万超え。ar web連載『僕のあまのじゃく』では、フリースタイルエッセイを毎週お届け中。
テーマ:出会い
最近、30歳になったということもあり、仕事終わりに夜な夜なバーへふらっと立ち寄るようになった。
何だか大人って行きつけの店が1つや2つあるイメージだし。
ただの憧れなのだけれど、かっこいい大人になるために寝酒のために一杯だけひっかけて帰るのだ。
ある日、仕事が早めに終わったので、バーへ行った時のことだ。
カウンターに座って、今日の気分でお酒を飲み始めたのだけれど、この日は出会いがあった。
一人でカウンター席で飲んでいると、隣の席の人から声をかけられたのだ。
パッと声のする方に目を向けると、ガハハと笑いながら陽気に話してくる恰幅のいい髭モジャモジャの男性がいた。
まるでハリーポッターに出てくるハグリッドのような容姿だった。
以降、私の頭の中では、彼のことをハグリッドと呼ぶことにした。
ハグリッドはお酒の力も相まってか、陽気に英語で色々と私に話しかけてきてきたのだけれど、
一人でお酒を飲みに来ていたのに、ガンガン距離を詰めてくる彼に動揺した。
こんな風に、お酒の場で出会って楽しくお話しできたら、さぞかし楽しいのだろうけれど、
唐突な出会いと、低レベルな英語読解力もあって、オロオロと戸惑ってしまう。
30歳にして、これくらいの対応しか出来ないなんて、なんてダサいのだろうか。
どうしてこんな狼狽してしまうのか、考えると、おそらく私は出会いに対して普段から心の準備をしていないからなのだろう。
心を閉ざして生活しているのだ。
人間は如何にして幸せに生きれるのか。
その答えを己の内面性に求め、考え続けて思考の迷宮に迷い込んだ結果、自己完結する思考が精神には健全だという答えになったのだ。
そうなると、他者との関わりに何も期待もしなければ求めもしないようになってしまった。
一人で幸せになれるならそれに越したことはない。
一人で楽しめるエンターテインメントなんて世の中には腐るほどあるし、
ただでさえ読めていない小説や漫画が山ほどある。
Netflixでは見る予定の映画が溜まっていっているのに、
他人に割く時間なんてある訳が無かろう。
だから、心のシャッターのようなものを一枚隔てて、基本的には人と接しているし、
オープンマインドで人と接しようとしていないから、ハグリッドに対して狼狽えてしまっているのだ。
周囲から「芸人ってモテるでしょう」と言われることがあるけれど、
他者と積極的に関わろうとしない人間が、モテるもなにもない。
芸人に関わらず、モテる人間というのは、人との関わりを持つことに積極的な人なのだと思う。
自分の消極性を情けなくも感じた。
ただ、私も一方的にやられるタマじゃない。
日常会話もままならない低レベルの英会話力でも、私は芸人。
ジャパニーズコメディアンだ。
一方的に話を聞くだけのこの場から、一転させて楽しんでもらいたい、という気持ちがムクムクと湧いてきた。
お酒の力もあったのかもしれない。
陽気なハグリッドの勢いに負けないよう、こちらも陽気に対応することにした。
何を言っているのか、お互いよく分かっていないのだけれど、
ハグリッドは私のことを、お前は仕事サイボーグだと言い、私はハグリッドのことを、お前は大型犬だと言い合っていたら、
何故か、お酒の力も相まって、意気投合するに至った。
今やLINEを交換して、毎日翻訳機能を使いながらやりとりをしているほどだ。
自分とは違う感性や文化圏にいる人の意見や情報は楽しいし、やりとりをして視野も広がる。
出会いというのは、自らその扉を閉めるべきではない、と痛感した。
今後もこのような出会いがあるか分からないけれど、
もし誰かと出会った時には、ハグリッドの例を思い出して、オープンマインドで接していきたい。
ー完ー
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