僕のあまのじゃく#83
ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。
ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡
前田裕太(まえだ・ゆうた)
PROFILE:1992年8月25日、神奈川出身。グレープカンパニー所属のお笑い芸人ティモンディのツッコミ、ネタ作り担当。愛媛県の済美高校野球部に所属した同級生・高岸宏行が相方で、2015年1月に結成。2人の野球経験を活かした『ティモンディベースボールTV』の登録者数は23万超え。ar web連載『僕のあまのじゃく』では、フリースタイルエッセイを毎週お届け中。
テーマ:卒業
春は別れと出会いの季節。
学校を卒業し、次の活躍の場に身を移す希望の時期だろう。
ただ、期待に胸を膨らませるなかれ。
環境が変わっても人間性が変わらなければ、たいして何かが変わる訳ではない。
周囲が変われば何かが変わるという幻想を抱いている人が多くいる。
私のようにあれこれ考えてしまう人間は、悩みの種が少ない環境に身を置いたとしても、結局重箱の隅を突くように悩みの粒を見つけ出し、頭を抱えて悩むのである。
人生はいくらでも仕切り直しができるけれど、人格の仕切り直しは余程のことがないかぎり出来ないのだ。
高校や大学を卒業したとしても、自身が変わらねばならない。
根腐れした自分の性格からは簡単には逃れられないということだ。
私の歪んだ性格はゾンビと化して、私がどこへ行こうと後を追ってくる。
新天地に行っても結局は悩んであれこれ考えてしまうのは、きっとこのゾンビが後から追いついてきてしまうからだろう。
ウォーキング・デッドよろしく、私は自分の陰鬱なゾンビから逃げなければならない。
私のゾンビは「お前は幸せなのかぁ」だとか「幸せの定義ってなんだぁ」とかを絶えず口にしている。
そんなこといちいち考えなくたって良いのに、どこへ行ってもゾンビは追ってきて、夜には私の枕元にたどり着き、耳元で「お前はダメだなぁ」と囁いてくるのだ。
大切なのは今所属しているカテゴリーからの卒業ではない。
高校を卒業しようが大学を卒業しようがあまり変わらない。
自分自身のゾンビに卒業しなければならないのだ。
幼少期は年齢を重ねれば、それだけで成熟した大人になれると思っていた。
30歳なんて、もう世の中の大半を理解している落ち着いたダンディーとなっているもんだと信じて疑わなかったし。
読者諸兄姉もそうだろう。
まだ大人になっていない諸君も、きっと私と同じように望んだ大人にはきっとなれないだろう。
悪いことは言わない。
早く自分のゾンビに別れを告げて卒業しなければならない。
私は卒業できていないから、この仕上がりなのだけれど。
ただ、今はそのゾンビに対して目下卒業に向けての活動中である。
仕事が終わると「今日の仕事は60点だったなぁ」とか「準備足りてなかったなぁ」とか未だに囁いてくる。
早くこいつから卒業したい。
「返しが弱いな」「ピクミンじゃないんだから、は分かる世代が限られてるから、もっと違うワードが良かっただろ」
「そんなじゃ関係者の人は評価してくれないぞ」「そもそもお前向いてないんだよ」
そんなことを今夜もゾンビが言ってくる。
その通りである。
まだまだこんなんじゃまだダメだ。
けれど、このゾンビといても碌なことはない。
精神衛生がすこぶる悪くなるのだ。
シャワーを浴びながら「うわぁ!」と唐突に叫んでしまうことが多々あるのだけれど、これは正常な人間の反応ではない。
そういう日々が続くのが嫌でゾンビの相手にしないようにして耳を塞いでも、いなくなってはくれない。
ただ、手をこまねいている私ではない。
最近は「黙ってろ、頑張るからどっか行け」と強い言葉を使って、毎度毎度別れを告げている。
ゾンビから卒業すべく手を打っているのだ。
強い言葉を使えば使うほど、攻撃的な性格に拍車がかかるけれど、その瞬間はゾンビがいなくなってくれる。
油断するとすぐにゾンビは湧いて出て、夜な夜な私を襲ってくるのだけれど、今は着実に卒業に向けて突き進んでいるのだ。
若人たちも読者諸兄姉も手遅れになる前に、各自のゾンビと別れを告げて卒業しなければならない。
まあゾンビなんてうちに飼っている酔狂な人間も少ないのかもしれないけれど。
私はまさに今卒業に向かって走っている。
ー完ー
ティモンディ前田裕太「止められない失敗」【僕のあまのじゃく#82】
ティモンディ・前田裕太「売れても変わらないようにするにはどうすれば?」クレバーすぎる頭のナカ