僕のあまのじゃく#98

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

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ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

テーマ:記念日

「この日、○○さんの誕生日だからもし時間があったら顔出してあげて」とスタッフさんから言われたことがある。

正直、その誕生日を迎える人とは深い関わり合いはない。
今までの仕事の中で一度ご一緒をしたことがあるけれど、それ以上でもそれ以下でもない。
しかも、その仕事で特にたいして話をした訳でもない。
直接話をした内容は、挨拶程度だ。
そんな薄い関係性の人間が、誕生日という記念日にのこのこ行ったところで何をすることがあるだろうか。
大切な記念日なのであれば、大切な人たちと過ごすべきで、祝うべき場によそ者がいても誰も得しないだろう。
逆の立場だったら「なんで来たの?」と口にはしなくとも思ってしまうだろう。ってか誘われたとしても断れよ、って。
だから、私が行ったとてLose - Loseの関係になるのは目に見えている。
そんなお互いに得のない負け戦に行く訳がないだろう。
断ろう。
そう思って「タイミングが合えば」と濁して答えるとスタッフさんから「是非来てよ!絶対○○さん喜ぶから」と強く言われてしまった。
「本当に!喜ぶから!頼むね!」という押しに対して「分かりましたあ」と形だけの返事をしてその場を去る。
こういう場合、嫌でも行くべきなのだろうか。

この業界、人間関係が大事だよ、という言葉を耳にしたことがある。
もしも本当に相手が喜んでくれるのであれば、顔を出すべきなのだろう。仕事の関係者であれば余計に。
万が一にも仕事に繋がる可能性があるならば尚更だ。

「人脈は財産だ」だなんて薄っぺらいビジネス書に書いてあったことを思い出す。当時は胡散臭い人間が書いたことなんて信用するものか、と思っていた。
けれど、人の言うことを聞くことが賢明な人間の判断なのだとしたら、きっと誕生日会に行くべき。
人付き合いを蔑ろにすべきではない、という教えには合理性がありそうな気もするし。

今までの人生ではこの手の類は避けてきたけれど、腹を括る。
きっと芸能界というジャングルを生き抜くためには、こういう外交をしなければならないのだろう。
そして、その時が私にも訪れたのだ。
いつかゴールデン帯で番組を持つような人間は、こういう場面でも抜かりなく顔を出したりするに違いない。
それにスタッフさんにも「分かりましたあ」と答えてしまったし。
こうして、思い切って誕生日会に顔を出したのだった。

指定された六本木の飲食店に着く。
その飲食店は貸し切りで、入ると多くの人で溢れかえり、大音量で音楽が流れていた。

すぐに後悔した。

仮設のDJブースが設置されていて、DJが音楽を流している。
薄暗い中で酔っ払いたちがその周囲に集まり、ご機嫌な様子でリズムをとっていた。
この手の類の人間は正直好きではない。
煩いだけで中身がない。当の本人達も、中身の充実した実りのある時間を過ごそうとはしていなことは明らかなのだけれど、肌が合わない。
大学の時に、飲みサークルで騒いでいる連中を見て冷めていた気持ちを思い出した。
そういう場が好きな人たちは、何年たっても大して変わらないのだな。
ただ、こんな苦手な場所に長居しても仕方がない。
一応誕生日プレゼントに粗品を買ってきたので、早めに渡して帰ろうと、誕生日を迎えた当人を探す。

単に騒ぎたいだけのような人と人の間を抜けて、誕生日を迎えていた当人を見つける。

音楽で声が届かないので近くまでいって当人に声をかけた。
「おお、前田君じゃない!なんでいるの!」
驚いている様子だった。
けれど、それはサプライズを受けた喜び寄りの感情の驚きではなく、純粋に驚いている様子だった。
「どうしたの!」だなんて言われたけれど「呼ばれたから仕方なく」だなんて答えられない。
おかしい。
喜ぶって聞いたから渋々来たというのに、そこまで喜んでいないではないか。
聞いていた話と違う。
喜んでもらえるような人間ではないのは自分の落ち度だけれど、それを分かった上で誘いを断ろうとしたというのに。
「〇〇さんから誕生日だって聞いて来ちゃいました」と言って粗品を渡す。
ニコニコとした表情を崩さなかっただけ大人になったなあと自分で自分を褒める。
「ありがとう!ゆっくりしていって!」
そう言い残すと、この会の主役は忙しいようで、早々に会話を切り上げてシャンパンを開けようとしている輪に戻っていった。
ゆっくりしていって?
なにを眠たいことを言っているのだろう。こんな環境でゆっくりしていけるはずがない。
すぐにその場を脱出して家路に着いた。
こんな外交が仕事を増やすとは一切思えなかった。

滞在時間およそ5分。
心身共に疲れて最悪な時間だった。

それから当人にも、その誕生日会に誘ってきたスタッフからも何も関わりはない。
特に顔を出した意味もなかったのだ。
あそこで仕事をとってくるような人間は、場を盛り上げて「そんな面白い部分あったんだね」と芸事の評価をしてもらえるようなパフォーマンスを見せるのだろう。
けれど、私の手札の中に、あの六本木パーティーの中で輝けるような芸はない。
そんな奴が行っても無駄だったのだ。
何故行く前に、冷静になってその考えにならなかったのだろう。
ひとえに、私が他人の言うことを素直に聞いてしまったからだろう。

冷静に考えれば、私の事務所の先輩であるサンドウィッチマンさんは六本木などの夜の飲み会に顔を出さない。
そもそもお酒が二人とも飲めない。
二人とも仕事が終わればすぐに家族の元に帰るし、麻布でサンドさんを見ただなんて話は一切聞かない。

もちろん、サンドさんは飲み会とかには顔を出さないけれど、スタッフの人たちに別の形で気を使っている姿を見てきたので、それは真似していきたいと思う。
けれど、ゴールデン帯で番組を持つ、という目標を達成するために、仲良くもない人の記念日に顔を出す必要もなかったのだ。

当たり前のことだけれど、記念日は、その記念の日をお互いに喜べるような間柄の人間たちで集まってやるべきなのだ。
もしも過去にタイムスリップできるのであれば、昔の自分にその旨を伝えたいと思う。
無駄な努力、お疲れ様、私。

ー完ー

ティモンディ前田裕太「恋愛は選択の連続だ」【僕のあまのじゃく#97】

ティモンディ・前田裕太「売れても変わらないようにするにはどうすれば?」クレバーすぎる頭のナカ