【斎藤工】Netflixオリジナル映画『This is I』の撮影秘話を語る

実話がベースとなっている今作ですが、初めて台本を読まれた時に感じたことを教えてください。

この『This is I』の原案は、和田(耕治)先生の『ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語』という本なのですが、タイトルからとても強い印象を受けました。でもNetflixさんの時代を読む力だったり、新しいことにチャレンジしていく姿勢みたいなものには元々僕自身も非常に興味がありましたし、ただ面白おかしく当事者の方の半生を描いているというよりは、当事者の方々へ心からリスペクトを込めて作品作りをしているところに勝手ながら信頼を寄せていたので、非常に楽しみにしていました。

この作品は、やはりはるな愛さんの役を誰がされるのかというところが最も重要だと思っていて、初めて望月(春希)さんにお会いした時に「これは必然だったんだ」と思えるくらいにぴったりな方だと思いました。

望月さん自身とっても明るい子なんですけど、撮影現場の雰囲気もとても明るくしてくれて。撮影当時は17歳だったかと思うんですけど、学生なので中間テストや期末テストがあったり、単位のこともあったりするなかでセリフを覚えたり、曲の振り付けをして、でも全然辛そうな姿を見せずに頑張っていたので、本当にすごいと思いました。大人でもなかなかできることじゃないと思います。

望月さんがはるな愛さんを演じるにあたり、ご本人から指導を受けたそうなんですが、”エアあやや”の指導はとても厳しくご指導を受けたと聞きました。普段のはるなさんはとてもお優しい方なので、そのプロ意識というか、角度1mmにもこだわる徹底ぶりにも驚かされましたね。

斎藤工 撮影/楠本隆貴

はるな愛さんと和田先生の出会いって、とても”運命的な出会い”だと思うのですが、斎藤さんご自身の運命を変える人との出会いって?

そうですね…運命というと少し大きな言い方になってしまうかもしれないのですが、昨年の夏に永尾柚乃さんとドラマで共演させていただいたんですけど、とても良い刺激をもらいました。彼女は脚本家でもあるんですね。5歳から映画の長編を書かれていて、共演させていただいたよしみで「見せてよ」って言って見せてもらったんですけど、そこに書かれていることがあまりにも芯をとらえていて…。簡単に言うと、内容は「現代の人は利他の心を失っている。それを取り戻そう」という内容の脚本だったんですけど、ピュアで力強いメッセージに心を打たれました。生き方が多様になっているからこそ、改めて刺さるものがあるなと思っています。

僕らの世代とは比べ物にならないくらい、現代を生きる若い世代はいろんな価値観や多様な生き方を自分で選んでいかなきゃいけないハイブリットな世代だと思うんです。僕は運命というか、僕自身の”中年としての定め”みたいなものがクリアになった感じがしました。ちょっと偉そうに聞こえてしまうかもしれないのですが、彼女たちのそのピュアな力強いメッセージを導いていきたいというか、壁になるようなことや邪魔をしないことというのが、僕らの最大の役割ということに昨年気がついて、ある意味運命の出会いだったんじゃないかと思っています。

誰しも歳を重ねるほど「自分が正しい」と思い込んでしまったり、新しいやり方や発想を否定してしまったりする可能性って否定できないと思うんです。だからこそ、柚乃さんや望月さんみたいな、希望のような若い世代に乗っかっていくような大人になりたいなと思いますし、しっかりと守っていくような存在になりたいと思っています。

斎藤工 撮影/楠本隆貴

”自分らしさ”への悩みは死ぬまで向き合っていくものだと思う

今作のテーマのひとつで「自分らしさ」があるかと思うのですが、斎藤さんご自身は「自分らしくあること」「信念を貫く難しさ」について悩まれたり、考えたりすることがありますか?

考えますね。むしろ、そういった悩みとは死ぬまで向き合っていくのかなと思っています。逆に、悩みとかなくてすべてがスムーズに進んでいくことを想像すると、すごく恐ろしいしつまらないなとも思います。作品を演じる上で、役の人間味や僕だからこそ出せる色というものも、出なくなってしまうんじゃないかと思うんです。
すべてがそうではないけれど、”共感”はポジティブな部分というより、どこかネガティブな、人には見せないような感情や葛藤に生まれるものだと思っているからかもしれません。

だからこそ、自分の人生が一つのドラマだとしたら、苦しい時って本当に苦しいけど、だからこそそれが見所になるぞ!って己に言い聞かせています。映画やドラマを見ていて、そういう作品に心を動かされてきてませんか?僕はそうです、っていうような答えをするんじゃないかな。

斎藤工 撮影/楠本隆貴

そういった意味でも、今回の映画で勇気づけられる方はたくさんいらっしゃるんじゃないかなと思います。当時、国の法律ではタブーとされていた性別適合手術を、性に悩む人々のために命懸けで行ってきた和田先生は、常に葛藤の日々だったと思います。でもその姿は患者さんに必ず伝わっているし、その想いに救われた患者さんがたくさんいるから、病院に彼女たちの”名刺”が増えていったと思うんです。

自分にスポットライトが当たるわけでもないけど、陰ながら自分の性別で悩む人たちを救って、一人でも多くの人の夢を叶えていく姿は心揺さぶられるものがあるんじゃないかと思います。改めて、演じさせていただけて本当によかった、宝物のような作品です。

Photo:Kusumoto Takaki