#村瀬紗英写真集 #Sがいい に寄せた私小説、第2話。
ついにアルと村瀬が対面を果たします――。
☆第1話はコチラ☆
「はい、御社の村瀬紗英さんに、わ、私どもの『rara』6月号に出演いただきたいと思っておりまして、えー、ページ数は8ページで、実はか、巻頭特集の…」
自分でも笑ってしまうほど、電話口で震え声になってしまったけれど…、
取り急ぎ、『rara』初出演となる村瀬のマネージャーと一度会う約束を取り付けた。
Sプロのマネージャーさんは電話の向こうで本当に嬉しそうだった。
「raraさんは村瀬がずーっと、一番好きな雑誌だと言っておりましたから…しかも巻頭に出していただけるなんて。本人も喜ぶに違いありません。編集長さんにもぜひ御礼をお伝えください」
翌日、南青山のSプロを訪ねた。
僕の押したチャイムに応えてドアを開けたのは、マネージャーさんではなく、Tシャツ姿の村瀬紗英だった。
「お待ちしておりました。村瀬紗英です!」
長い髪をラフにまとめ、裸足で玄関につま先立ちした村瀬が、いたずらっぽく言った。
「アルくんが私を思い出してくれて、巻頭特集に私を選んでくれて、嬉しいよ」
僕の目の奥を覗き込みながら言う。
いや、キミを選んだのは僕じゃなくて編集長…と言おうとして、やめた。
村瀬の嬉しそうな顏を見ていたら、僕がこの子を必ずスターにしてみせる、
そんなキザな考えが浮かんできていた。
モデルなんだから当たり前ではあるけれど、27歳の村瀬はかなり、というか完全に、美しく、まぶしかった。
小学校の同級生同士の20年越しのタッグ―という美談に、マネージャーさんもすっかり目を細めている。
「積もる話もあるでしょうから、私は出かけますけど、お二人はゆっくりお話しでもされていってくださいね」
打ち合わせを終えたあと、そう言って僕と村瀬を残し、
マネージャーさんは事務所を出て行ってしまった。
「アルくん、すっかりファッション誌の編集者だね。似合ってる」
たしかに僕は、おしゃれになった。
いい服をたくさん知ったし、同世代のスタイリストやカメラマンたちも洗練された人ばかりで、自分も自然と、アカ抜けたと思う。
「私、ほんまにraraが大好きやって、毎月読んでるよ。一番最後のページにアルくんの名前載ってるの知ってたから、いつ連絡くれるかなってずっと待ってた」
なんて、キザ心をくすぐることばかり言うんだ、こいつは。
見た目も性格も、本当に猫みたいなモデルだな、と僕は、
編集長の審美眼に改めて感服した。
SプロのHPで見た村瀬の宣材写真は、笑顔ではなかった。
モード風のメイクに黒髪ロング、カメラを見下ろすような視線は鋭く、
美人であることは一目でわかるが、
はっきり言って、近寄りがたいイメージを感じる。
まさかこの写真の女が、大阪弁で人懐っこく笑っている目の前の女と同一人物だとは、
世間はイメージしないだろう。
差し出がましいながら、少しもったいないような気がする。
「村瀬」
僕は静かに心を決めていた。
“この一世一代の巻頭特集で、僕が君を必ず有名にするよ―”。
「なに?」
そんなこと、幼馴染の美人を目の前にして、言えるはずがなかった。
「と、東京で友達はできた?」
あぁ、なんでカッコつけられないんだ、僕は。
冷や汗をかきながらも、今だに不思議に思えるのだった。
学校全体でも浮くほどおしゃれだった村瀬が、この僕と、
ただ何となく出版社に入って興味もないファッション誌に配属されただけの僕と、
2020年の東京で、向き合って話をしていることが。
☆このあと、アルの質問に村瀬は何と答える? Twitterで投票受付中!☆
☆このストーリーはフィクションです☆