村瀬紗英に会ったことのない小説家の先生が、想像で物語を紡ぎ出す企画。
前話の最後のセリフをTwitter投票で募ったところ、
A「たくさんできたよ! 同じ誕生日の親友がいるの」
が僅差で多数(本当に僅差!!)
とのことで、先生に結果を伝え、第3話を書き下ろしてもらいました☆
-第3話-
「たくさんできたよ! 同じ誕生日の親友がいるの」
友達いなくて寂しくないかな、と心配した僕は拍子抜けした。
村瀬が見せてきたスマホの待ち受け画面に、村瀬と、同世代らしき女性のツーショットが光っている。
「へぇ。歳も一緒なの?」
「私がひとつ下。めっちゃおしゃれやし、いつもご飯一緒に行くし、ほんまのお姉ちゃんみたいやから、お姉ちゃんって呼んでる(笑)」
東京に来て間もない頃、モデルとして初めてもらった仕事で一緒の現場だったスタイリストで、
歳も近くて誕生日も一緒、この業界のことも親切に教えてくれる人。
とにかく彼女を村瀬はかなり慕っているらしかった。
「ECサイトのカタログってさ、1日で200カット撮ったりするんよ」
えーっ。雑誌畑の僕からしたら、考えられないカット数。
「私、それが初めての仕事やったから、最初のほう飛ばしすぎちゃって。自分なりに準備してたポーズ、始めの15カットくらいで出し尽くしちゃって、後から見返したら、残りのカットがだいたい似たポーズしてた」
あははっと笑っているところを見るに、今では克服できたらしい。
「そういうモデルのルールみたいなのも全部、お姉ちゃんが教えてくれたな」
そうか。
そういえば、さっきマネージャーさんが言ってた。
村瀬はraraに初出演・初巻頭というだけではなくて、女性誌の巻頭特集に登場するのがそもそも初めてなんだと。
だから僕もわざわざ事務所に呼ばれて、打ち合わせまでしているんだ。
普段なら、撮影前の打ち合わせで事務所に足を運ぶほど僕も暇ではない。
村瀬にとって特別な撮影になるであろうこの日は、
僕の編集者人生の中でも特別な一日になるかもしれない―。
決意のような、淡い期待のような、曖昧な気持ちが湧いてくる。
「…そしたら、今回の巻頭のスタイリングもその人にお願いしようか、その”お姉ちゃん”って人に」
編集長には怒られるかもしれないけど、これは僕なりの戦略だった。
初抜擢のモデルを、raraおなじみスタッフで取り囲んでしまうと、お互いぎくしゃくして、いいものが出来あがらないことがある。
1人でも村瀬の”味方”になる人を配置しておけば、村瀬ものびのびと撮影に臨めて、撮れ高も高い。
そして本が完成した時、そうやって仕込んだ”ストーリー”があると、マスコミに取り上げてもらいやすい。
もちろん村瀬は喜んだ。
さっそく“お姉ちゃん”の連絡先を訊き、日程を確保しなくては。
村瀬に教わった携帯番号に電話を掛ける前に、インスタグラムで彼女の名前を検索してみた。
あー…、モデルと撮ったプライベート写真とか、けっこう上げちゃうタイプの人か。
村瀬との2ショットは、5投稿に1回くらいのハイペースでアップされている。
村瀬にどこか似た、涼しげな目元。
美人ではあるが、その100倍、
「気が強そうな人だな…」
思わず口をついて出てしまった。
これから”お姉ちゃん”との戦いが始まることが、僕は何となく予想できていた―。
☆このストーリーはフィクションです☆