すっかりご無沙汰になってしまった、この小説企画!
一部に熱狂的なファンを持つとウワサの「村瀬をめぐる冒険」、第4話をお届けします。
小説家の先生、本業が忙しかったそうですが、「Sがいい」を見ていただいて、
紗英の印象が少し変わったそう。
そんな先生のイマジネーションが紡ぐ物語を、お楽しみください~♪
===
「あのー、初めまして、女性誌『rara』編集部のアルと申しますが…」
村瀬から教わった例のスタイリストにさっそく電話をかける。
「あ、はい! 初めまして。スタイリストの朝日です」
ハキハキとした声はイメージ通りだ。
「次号のraraでスタイリングをお願いしたくてお電話差し上げました」
8ページの巻頭特集であること。
モデルは村瀬紗英であること。
撮影日は2週間後であること。
「えっ! 紗英が巻頭に出るんですか! すごい。私まで嬉しいなぁ。その撮影に呼んでいただけて光栄です。撮影日は終日空いてますので、ぜひよろしくお願いいたします!」
無事に日程を確保できたので、ひとまず安心。
だが、これから僕は長いバトルに巻き込まれることになる。
約束した打ち合わせ日、朝日はすでに喫茶店に座っていた。
村瀬のインスタで見た通りの、気の強そうな美人。
僕はナメられないように、持っている中で一番高いジャケットを着て、なるべく低い声で喋るように心掛けた。
この時から朝日への謎の対抗心が生まれていたのかもしれない。
挨拶のあと、平常心を心掛けてラフコンテを広げようとした時だった。
「アルさん、私気合入れすぎて、コーデいくつか考えてきちゃいました。8ページですよね? ますトビラはこういうモノトーンでかっこよく始めて、次の見開きは…」
出た。いやいや、待てって。
まだ何も話していないぞ? 編集者のこの俺が。
まず編集者のラフを見てページ構成意図をしっかり聞いて、そこから具体的な衣装の相談に入るのが筋だろうが。
村瀬のインスタで見た嫌な予感は的中した。
朝日にとって村瀬の巻頭スタイリングの仕事は、思い入れが強すぎて、独断で突っ走ってしまいそうな予感がしていたのだ。
想定内だったので、心の中に準備していた台詞を吐く。
「いや、朝日さん、さすがですね。村瀬さんの特徴を一番理解していらっしゃる。でも実は、今回の企画意図はそうじゃないんですよ。今までの村瀬さんのイメージにない、甘い可愛さだったり、フェミニンな魅力を引き出そうと思ってい…」
朝日がみるみる怪訝そうな顔つきになっていくので、語尾がしぼんでしまった。
「…なので、このラフみたいな感じの構成で、10体スタイリングをお願いできますか?」
P1-2 ピンクの世界でレース、ラメなど甘めな着こなし。
p3-4 スポーティ×ガーリーでヘルシーな姿を見せる。
p5-6 すっぴん風メイクで親しみやすいカット+インタビュー。
p7-8 今季のトレンドカラーをポップに着こなし。
僕が描いたラフを、朝日は長いこと眺めていた。5分ほど経っただろうか。
「なるほど。今までのイメージと全く違う、raraさんの世界観に紗英を染め上げるということですね。この構成で、紗英は本当に喜ぶんでしょうか?」
カッチーン。こんな図々しいスタイリストに出会ったのは始めてだ。
構成に口出ししてくるなんて。しかも根本否定。
さすがの僕もつい喧嘩腰になってしまう。
「村瀬さんの新しい魅力を見せられれば、今以上にファンも増えると僕は信じています。というか、そもそも色んな自分を見せるのがモデルの仕事じゃないですか!」
自分が村瀬と幼馴染であることは朝日に黙っていたが、つい口をついて出てしまった。
「村瀬はずーっとraraが一番好きな雑誌だ、raraに出たかったから本当に嬉しいと言ってたんですよ! 初仕事で荷が重いだろうから、村瀬の味方になってくれそうな朝日さんにスタイリングを頼もうと思いましたけど、お気に召さなければお断りいただいて大丈夫ですよ」
「アルさん…紗英の何なんですか?」
朝日が目を丸くしていた。当然だ。モデルのことを苗字で呼び捨てにする編集者なんて、さぞ不思議だろう。
「僕は…この巻頭で、どうしても村瀬をスターにしたいんです」
~To be Continued…~
☆このストーリーはフィクションです☆