生理前に睡眠の問題を抱える人は多い

生理前の強烈な眠気は、PMS(月経前症候群)の症状の一つです。3,000人の女性を対象とした厚生労働省の調査によると、生理前に「過眠または不眠になる」と回答した人が全体の42.8%にのぼることが分かりました。

その他のPMSの症状として「疲れやすく、気力がわかない」「感情が不安定になる」など精神的不調は半数以上の人が感じており、全体の44.1%の人が「集中力が低下する」と回答しています。生理前に眠くて仕方ないという悩みは、多くの女性が抱えている深刻な問題といえるでしょう。

参考:https://www.mhlw.go.jp/content/000919869.pdf

出典:Canva

生理前に眠くなるのはなぜ?

生理前に眠くなるのは、排卵後にプロゲステロンが一気に分泌されることが関係しています。生理が来る約2週間前から、眠くて仕事に集中できないなど日常生活に支障が出ている場合は、PMSの症状である可能性が高いです。ここでは、生理前に眠くなる原因を詳しく解説します。

基礎体温が高まる影響

生理前の眠気の原因は、基礎体温が高くなることが影響しています。LHサージ(黄体形成ホルモン)によって排卵が誘発されると、プロゲステロンの分泌量が増えて、高温期(月経2週間前)に入ります。排卵前の低温期と比較すると、約0.3〜0.5℃基礎体温が上昇し、人によっては37℃近くなるため熱っぽさ・だるさを感じることも。体温は睡眠の質と関係しており、人間の体の仕組みとして、深部体温が下がるタイミングで深い眠りに入ることができます。

しかし排卵後、高温期に移行すると、こうした深部体温リズムにメリハリがなくなることから、睡眠の質が低下することに。
その結果、眠りが浅くなり、日中に眠気を感じやすいといった睡眠トラブルが起きやすくなるのです。

参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の睡眠障害」

プロゲステロンの鎮静作用

高温期に急激に分泌されるプロゲステロンには、鎮静作用があります。プロゲステロンが分解される際に産生される「アロプレグナノロン」は、眠気を引き起こす原因物質。アロプレグナノロンは、抑制系の神経伝達物質であるGABA受容体を活性化させて、睡眠・鎮静作用をもたらします。そのため、「睡眠薬を飲んだみたいに」と例えられるほどの急激な日中の眠気を助長させると考えられているのです。

参考:ストレスと睡眠・情動障害:神経ステロイド・アロプレグナノロン系の関与(PDF)

出典:Canva

生理中も眠いのはなぜ?

生理が始まると、プロゲステロン・エストロゲンの急激な分泌の増減が緩やかになり、眠気やだるさ・イライラなどPMS特有の症状は徐々に緩和・消失していきます。しかし、生理中も日中の眠気がおさまらないことがあるのはなぜなのでしょうか。ここでは、生理中に襲われる眠気の原因についても解説します。

生理前の睡眠不足が影響

深部体温リズムにメリハリがなくなる高温期は、「寝つきが悪い」「ぐっすり寝た気がしない」といった睡眠不足の状態が続くことが少なくありません。特にPMSの症状が強い方は、排卵直後からの睡眠の質が低下しているだけでなく、イライラや集中力の低下など精神的なストレスも大きく影響することが多いです。そのため、生理が始まっても睡眠不足をなかなか解消できず、日中の眠気に悩まされると考えられます。

経血の心配で睡眠の質低下

生理中の眠気は、睡眠中の経血漏れなど気がかりなことが増えることが原因の一つであると考えられます。島根県立大学の成人女性を対象とした研究では、生理中の女性は、寝ている間に経血漏れに不安を感じやすく、経血量が多い時などはナプキンを替えることが気がかりになって熟睡できていない場合があることが分かりました。

・ナプキンを装着していても不快感があって眠りにくい
・経血が漏れることを気にして好きな姿勢で寝られない
など、生理中の睡眠時に関する心配ごとが増えると、質の低い眠りにつながってしまいます。

参考:島根県立大学 月経周期における睡眠で気になることの特徴 

出典:Canva

生理前や生理中の眠気対策

意識が飛びそうになるほど日中に眠くなる生理前や生理期間中は、どのように過ごしたら良いのでしょうか。女性ホルモンの影響があっても、普段の生活習慣を整えることで、眠気を軽減することが期待できます。

アルコール、タバコは控えめに

生理前の眠気や心身の不良は、飲酒・喫煙の程度によって悪化することがあります。女性ホルモンのエストロゲン・プロゲステロンは、肝臓で代謝されるステロイドホルモンの一種です。同じく肝臓で代謝されるアルコールは、飲みすぎるとなかなか分解されず、悪酔いやPMSの症状を強める要因に。一概に飲酒をしてはいけないということではありませんが、月経前のお酒は控えめにすることが望ましいです。

また、タバコのニコチンには血管収縮作用があるため、子宮の血流停滞を招いてPMSの症状を強めることがあります。
喫煙は卵子の質の低下や月経不順の原因にもなるため、可能であれば禁煙を心がけましょう。

適度な運動を

適度な運動習慣は、睡眠の質を高める効果や、PMSの症状の緩和が期待できます。運動するタイミングは、寝る前の3時間前がおすすめ。ウォーキングなどの有酸素運動で身体を温めると、ベッドで眠りにつく頃に、深部体温が下がるので、快眠につながります。体調が良ければ生理中であっても、負荷の少ないヨガや筋トレを取り入れましょう。

普段から運動習慣がある人は、運動を全くしない人と比較してPMSの症状が軽度であるということが研究で分かっています。仕事などで忙しい方は、寝る前に呼吸を意識しながらゆったりとストレッチを。自律神経が安定して、ストレスの緩和・安眠につながります。

参考:筑波大学 運動と月経随伴症状の関係(PDF)

出典:Canva

寝る2,3時間前の入浴

PMSの症状を軽減し、良質な睡眠をとるためには、入浴も大切な習慣です。残業などで帰宅が遅くなると、シャワーでさっと済ませてしまう人も多いのではないでしょうか?38〜40℃のぬるま湯に20分程度浸かると、深部体温が温まり、2.3時間後には体温が低くなって眠りやすい状態になります。

また生理中も入浴すると、骨盤周囲の血流が改善するため、PMS対策としても良い習慣です。ただし、寝る直前の長風呂や40℃以上の熱めのお湯は、交感神経を高ぶらせたり、頭痛やふらつきなどの体調不良を引き起こしたりと、安眠の妨げになることがあるため注意しましょう。

参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」

出典:Canva

睡眠環境を整える

すっきり気持ちよく朝起きるためには、温度や湿度・光など睡眠環境を整えることが重要です。寝る1時間前には、遮光カーテンで外からの音や光を遮断して、スマホやPCを見るのは控えましょう。ブルーライトは、体内時計のリズムを調節してくれるメラトニンの分泌を抑制してしまいます。

また、夜遅くなってしまった時の夕食も、眠りを浅くする要因に。油っこいお弁当は避けて、消化吸収に良い雑炊やうどんなどがおすすめです。快適な温度や湿度を調整するだけでなく、ラベンダーやベルガモットなど香りも取り入れてみると心身のリラックスにつながります。

参考:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf

市販薬の利用、婦人科の受診も

運動や入浴など生活習慣を見直しても、生理前はどうしても眠くて仕方がない・・という方は、PMS対策として、眠気を緩和できる市販薬を服用することも検討しましょう。

生理前の眠気などPMS症状に効果が期待できる漢方の一例はこちらです。
・加味逍遥散(かみしょうようさん)
・抑肝散(よくかんさん)
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) など

漢方は、体質や眠気以外のPMS症状も含めて判断し、適切に選ぶ必要があります。もし症状が改善しない場合には、婦人科で低用量ピルを処方してもらうことも可能です。我慢せずに、医療機関を受診して医師に相談してください。

出典:Canva

まとめ

生理前・生理中のどうしようもない眠気は、生活習慣と睡眠環境を見直すことで改善できます。PMSの症状が強い場合には、ためらうことなく医師に相談しましょう。