映画『余命10年』をただの感動モノと思うなかれ

恋愛×不治の病ーー。その”余生恋愛映画”という設定そのものに「どうにか感動させたい」という魂胆が見えて冷めてしまう人も多いかもしれない。でも、ちょっと待ってほしい。

『余命10年』も、タイトルだけを見るとそう感じるかもしれないが、本作品のメガホンを取ったのは映画『ヤクザと家族 The Family』、ドラマ「アバランチ」「新聞記者」などを手掛けた社会派作品界の新星・藤井道人

そもそもこのお方がよくある”余生恋愛映画”で終わらせるわけがない! 原作者である小坂流加さんに捧げた作品の背景とともに、見た人の琴線に触れる3つの見どころについて語っていきたい。

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小坂流加に捧ぐ、『余命10年』

原作者である小坂流加さんは、幼い頃から小説家を目指し、大学卒業後に難病を発症してからもなお執筆活動を続けており「余命10年」が小説家デビュー作となった。人はいつか死ぬ、とは分かっていても、事故で突然人生に終わりがきてしまうことと、残りの人生が後10年しかないとわかっている中で生きていくこと、どちらがつらいのだろうか。

闘病者本人が死と隣り合わせな状況の中、命をかけて書き綴った物語だからこそ、残り少ない日々に対する葛藤だったり、残してしまう人たちへの思いだったり、生々しさがひしひしと感じられる。

藤井監督自身、こういったいわゆる”余命もの”に対してある種の抵抗があったというが、原作から溢れ出る生命力により藤井監督の心は突き動かされ、ご家族への取材、地元である静岡県三島市で撮影など、一年をかけて撮影。映像化するにあたり贅沢とも言えるエッセンスが数多く盛り込まれることとなった。

映画『余命10年』は、”死が迫るリアル”が濃く反映された、まるでドキュメンタリーのような124分になった。

小松菜奈演じる茉莉の苦しい”涙”

©2022 映画「余命 10 年」製作委員会

小松菜奈には、「小松菜奈以外考えられない」と思わせる唯一無二の力がある。

そう感じた理由のひとつに、小松菜奈演じる茉莉の苦しい”涙”がある。
”食べながら咽び泣く涙”、”ぐっと堪えながらもほろりと落ちる涙””堰を切ったように溢れ出す涙”。これらの涙から、茉莉の置かれた状況や心境、そして病気の進行具合の変化が痛々しくも手に取るようにわかる。

お涙頂戴感のない、小松菜奈が小坂流加に憑依したかのような劇中の”涙”に、感情があふれた。

四季の美しさから見る、命の儚さと桜の刹那

©2022 映画「余命 10 年」製作委員会

『余命10年』は、「一年をかけて四季を撮りたい」という藤井監督の思いから、実際に一年をかけて撮影された作品であり、ただただ季節の移ろう様子が美しい。

桜が美しいと思えば、目まぐるしく過ぎ去る、気分も上がり羽目を外しがちな、金木犀の香りに感傷的になる、澄んだ空気に思いを馳せる

劇中で見られる茉莉の余生と巡り巡る季節は、まるで天国へのカウントダウン。中でも、茉莉とカズくん(坂口健太郎)にそっと寄り添う桜吹雪の描写は、命の儚さと桜の刹那を同時に表現した秀逸な映像美だった。

RADWINPSによる劇伴とエンドロールで感情が大爆発

©2022 映画「余命 10 年」製作委員会

映像のよさはたっぷり語ったが、最後に音楽についても語らせてほしい!

今回の劇中歌を担当しているのは「RADWIMPS」。「RADWIMPS、もとい野田洋次郎、天才か?」と今回も心から思わされた。

流れるたびに、感情を揺さぶられる”THE RADWIMPS”な劇伴は、なんと29曲にも及ぶ。

『君の名は。』の「前前前世」しかり、『キネマの神様』の「うたかた歌」しかり、そして『余命10年』の「うるうびと」しかり。
野田洋次郎から生み出される映画に忠実すぎる主題歌は、エンドロールが流れ終わる最後の一瞬まで観客の心を掴んで離さない。

序盤から連想してしまう”最期”に涙

「出逢わなければよかった。だけどもう、出逢ってしまった。」
映画を観て初めてきっとこの言葉の真意がわかると思う。

よくある”余生恋愛映画”と思って観に行くと、120%後悔するでしょう。自分でも引くほど泣いてしまうので、残念ながらデートにはオススメできません。

とにかく、マスクの替えとハンカチだけは忘れずに、心して『余命10年』に向き合ってほしい。

Text:Kirimoto Erica