生理痛とPMSの違い
生理痛は、月経が始まる頃にみられる下腹部痛や腰痛であり、PMSは、生理前の2週間前(排卵後)から月経が始まるまでの時期にみられる症状のことです。生理痛とPMSにはこうした時期の違いはありますが、それぞれ何が原因で現れる症状なのでしょうか?
生理痛は、子宮内膜から産生される「プロスタグランジン」が主な原因です。プロスタグランジンは、子宮収縮の作用を持ち、剥がれた子宮内膜を経血とともに排出する働きを持っています。一方で、PMSの原因は未だはっきりと分かっていません。しかし、排卵後に急激に分泌されるプロゲステロンが影響しているのではないかと考えられています。
また女性ホルモンが、リラックス作用のある神経伝達物質「セロトニン」「GABA」の働きに関与しているとの見解もあり、月経周期における急激なホルモンの増減がPMSの症状と深い関わりがあるようです。
参考:https://www.nittai.ac.jp/female_project/conditioning/kisochishiki/186/
PMSの見分け方
PMSは、ストレスや生活習慣など複数の要因が影響しているため、自分がPMSなのかすぐに見分けることは難しいかもしれません。半数以上の女性が経験しているといわれるPMSですが、症状は200種類以上に及ぶと分かっています。
PMSの主な症状は、以下の3つのタイプに分類できます。
・神経精神症状:情緒不安定、イライラ、抑うつ、眠気、判断力の低下など
・自律神経症状:食欲不振、過食、めまい、倦怠感など
・身体的症状:腹痛、頭痛、腰痛、乳房痛、むくみ など
日本産婦人科学会によると、PMSの診断方法として、下記の項目を挙げています。
・月経前に心身の症状があらわれる
・月経が開始すると、症状が軽減する
・現病歴として、うつ病や精神疾患がない
米国産婦人科学会では、過去3カ月間の生理周期のそれぞれ月経前5日間に、精神・身体症状が一つ存在すればPMSと診断し、月経開始後4日以内に症状が消失することも条件に挙げています。
PMSとPMDDの違い
PMSの中でも、怒りっぽくなる・悲しくなるなどメンタルの不調が特に辛い方も多いかもしれません。ここでは、PMSとPMDDの違いについて解説します。
PMDDとは?PMSと期間は同じ
PMDD(月経前気分不快障害)とは、PMSの中でも、不安感や怒りっぽさ、抑うつなど精神症状が強くあらわれて、日常生活に支障がでる精神疾患のことです。PMDDの期間は、PMSとほぼ同じであり、生理前に症状が始まり、生理開始から数日以内に軽減・消失します。
精神疾患の診断・統計マニュアル(以下DSM-5)では、2013年にPMDDが抑うつ障害の一つとして分類され、PMSの重症レベルとも異なる疾患だと定義されました。
・著しい感情の不安定やいらだち、抑うつや緊張などの精神症状
・身体症状や自律神経症状のいずれかが1つ以上みられる
・仕事や学校など日常生活または人間関係に支障が生じる、生産性が低下する
上記のような症状が、1年間のうちほとんどの月経周期で生じるものを指します。
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/77/4/77_360/_pdf/-char/ja
PMSとPMDDの治療の違い
PMSは、軽度~中程度であれば生活習慣の見直しや運動によって改善が期待できます。
・有酸素運動
・カフェイン、タバコ、アルコールを控える
・睡眠の質を整える など
また、漢方薬やカルシウム製剤などのサプリメントの摂取も推奨されています。むくみや腹痛などの身体症状には、対症療法として利尿剤や鎮痛剤を処方してもらうことも可能です。
一方で、精神症状が強い重度のPMSやPMDDの代表的な治療方法は、抗うつ薬と低用量ピルなどホルモン剤での薬物療法です。抑うつや怒りの症状が強い場合は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が有効とされており、セロトニンの量を補うために少なくとも2週間以上は服薬する必要があります。
PMS・PMDD診断
DSM-5によると、月経がある女性のうち1.8〜5.8%がPMDDであるというデータがあり、決して珍しい疾患ではありません。些細なことで怒ったり涙が出たりするPMDDは、自分でうまくコントロールができず辛いもの。厚労省の調査によると、PMDDの症状があっても、一人で我慢して医療機関を受診していない人は全体の42%を占めています。大したことではないと思っていても、職場や友人・彼氏など人間関係に影響が出る恐れもあるため、早期の診断と適切な治療が必要です。
「いきなり病院に受診するのは気が進まない‥」という方は、厚労省研究班監修のセルフチェックで診断してみましょう。
11の質問に「はい」「いいえ」で答えるだけなので、1分程度で終わります。
参考:「女性の健康推進室ヘルスケアラボ」 PMS/PMDDチェック
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/22/3/22_258/_pdf/-char/ja
PMSの症状が生理中も続く場合
「生理がきたのに、気分の落ち込みが改善しない」
「人と関わりたくない、仕事に行きたくない・・」
PMSだと思っていた症状が、生理中も続く場合、不安定な体調が長引くことで心配になってしまいますよね。個人差の大きいPMSの症状は、月経期間中に徐々に改善・消失するものなので、生理後も数日続くことが大いに考えられるでしょう。
しかし、PMSが改善されるどころか、生理中に症状がピークとなり、我慢できないほどの腹痛やイライラが生じている場合は、「月経困難症」や「周経期症候群(PEMS)」など他の疾患が隠れている可能性が高いです。エコーをしないと分からない子宮筋腫や子宮内膜症が影響していることもあるので、まずは婦人科を受診しましょう。受診の際には、基礎体温や月経周期、体調や心の変化などのメモがあると、スムーズな診断・治療につながります。
参考:http://pscenter.doshisha.ac.jp/journal/PDF/Vol4/pp25-.pdf
まとめ
PMSの症状は人それぞれ異なり、日常生活が困難になるほど重症な場合は、精神症状が強くあらわれるPMDDやその他の疾患の可能性もあります。
セルフケアでも改善しない時は、遠慮することなく、まずは医師に相談しましょう。