ーたしかに、ミュージシャンがよく「この曲は10年ぶりにやります、頑張って思い出しました」って言ってる場面ありますけど、観客からすると本当かな?って思いますよ。そんなに忘れるんですか?

全然忘れます

ー自分が産んだものなのに?

「そりゃそうでしょう。何一つ覚えてない曲とかありましたから」

ーなんと。

「でも聴き返したらやっぱりいいんですよ。こいつ、この歌詞どんな気持ちで書いたんだろう、すごいな、って思ったり。もちろん中には1曲1曲への思い入れがハンパじゃなくて、全部覚えてる人もいるかもしれないけど、そんなこと言ってたら10曲くらいしか作れないから!

ーあぁ、なるほど。

「その都度その都度の到達点っていうのがあるんで、それでいいんです」

ーへぇ〜。でも、観客側は覚えてたりするんですよね。なんで本人は忘れちゃうんでしょう?

「けっこう歌詞とかもお客さんのほうが覚えてること、ありますよね。そういうもんなんですよ。逆に言うと、自分の作ったものに囚われてたら、次の新しいものは作れないんですよ。たとえば井上陽水さんって自分の曲すぐ忘れるって言うんですけど、『傘がない』っていう超名曲がありますけど、この曲に彼自身が囚われてたら、『傘がない』を超えるものは作れない。やっぱり過去より未来のほうが重要だし、過去より次に作るもののほうが大事なんですよ」

ーそう…なんですか?

「でもこれってすごい難しくて、『じゃあそんな思い入れのないものを私たちは買わされてるのか!』って話になるかもだけど、そういうことじゃないんだよ」