AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査とは

AMH(抗ミュラー管ホルモン)は、成熟段階の卵胞から分泌されるホルモンであり、卵巣の予備能(卵子の残数)を反映します。
胎児期に卵巣の中で作られる約700万個の卵子は、出生時に約100万個まで減少し、新しく作られることはありません。
月経が始まる頃になると、卵子の数は約20~30万個となり、やがて閉経を迎えるまで減り続けます。
卵子の元となる卵母細胞は、一カ月に約1,000個も消費しますが、成熟して排卵に至るものは、たったの1個。
採血で調べられるAMHの値は、卵胞が発育する過程の「前胞状卵胞」と「小胞状卵胞」の残数を表しています。

一般的な不妊治療の血液検査では、AMH検査以外に下記の3つの女性ホルモン値で、卵巣機能を評価できます。
・LH(黄体形成ホルモン)
・E2(エストラジオール)
・FSH(卵巣刺激ホルモン)
これらの女性ホルモン値は、月経周期の中で変動があるため、「生理○日目」など採血のタイミングが決まっていることが多いです。
しかし、AMH検査は月経周期に影響されることがほとんどないため、いつ検査しても良いという特徴があります。

参考:東邦大学医療センター 卵の数はどのくらい?-AMHについて-

出典:Canva

年代別AMHの平均値


AMHは、「卵巣年齢」と呼ばれることも多く、加齢に応じて数値が低下する傾向があります。
2016年に福井大学が発表した、日本人女性4,600人を対象とする研究では、年代別のAMH値の平均が明らかになりました。

<年齢層別 平均AMH値>
20代   AMH6.13ng/ml
30代前半 AMH4.94ng/ml
30代後半 AMH2.91ng/ml
40代前半 AMH1.73ng/ml
40代後半 AMH0.7ng/ml

上記のデータから、30代から40代にかけてAMH値が著しく低下しており、年齢と共に数値が下がることが読み取れます。
しかし、AMHは同じ年代であっても個人差が非常に大きく、20代の女性であっても、AMH値がゼロに近いことも珍しいケースではありません。
そのため、AMH値には正常値・異常値という概念はなく、あくまでも卵子の残数を客観的に判断する数値となります。

参考:福井大学 母娘の世代間妊孕性に関与するリスク因子の研究と妊孕性支援教育プログラムの構築(PDF)

出典:Canva


AMHは低いとどうなる?


一般的に加齢に伴い低下するAMHですが、AMH値が低いと妊娠率も低くなるというわけではありません。
しかし、体外受精の治療を受ける際の、採卵数に影響を及ぼします。
採卵とは、排卵誘発剤を用いて、複数の成熟した卵子を体外に取り出す方法のこと。
低AMHの場合、一度の採卵で一個しか採卵できないということも少なくありません。
1個の受精卵が無事に成長して体外受精に進んだとしても、妊娠に至らない場合は、もう一度採卵から行わなければならず、心身の負担は大きくなってしまいます。
逆にAMH値が低くない場合は、一回の採卵で複数の卵子が取り出せる可能性が高いため、採卵回数が減って、治療スパンを短縮できます。
低AMHであっても、適切な治療を受けて、受精卵が正常に育てば問題ありません。
実際に、AMH値がゼロに近くても妊娠・出産した事例もあるため、正しい認識を持ちましょう。

参考:一般社団法人日本生殖医学会 Q24.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?

出典:Canva


AMHの値は”卵子の質”を反映しない


アメリカ疾病予防管理センターが発表した、自身の卵子と若年女性からのドナー卵子の胚移植の治療成績を比較したデータでは、加齢に伴って妊娠率が下がることが示されました。
高齢になると、卵子の質が低下することで、妊娠率が下がるだけでなく、流産率も増加します。
特に35歳以降の妊娠では、卵子の染色体異常や受精卵の細胞分裂異常によって胚盤胞がうまく育たず流産しやすいといわれています。
妊娠に至るために重要なポイントは、AMHの値(卵子の数)ではなく、卵子の質です。
見た目が若々しくても、年齢を重ねることで卵子の質は低下し、妊娠率が下がる傾向になることは防ぐことができません。
また、卵子の質の低下の要因は加齢だけでなく、喫煙などの生活習慣も少なからず影響しているともいわれています。
今後妊娠を考えている方は、体の状態を知るためにも、早めに婦人科を受診することを検討しましょう。

参考:東京都福祉保健局 不妊症Q&A

出典:Canva

AMHは高い方がいい?


卵巣予備能の指標となるAMHの値は、高ければ安心というわけではありません。
血中AMH濃度が高値の場合、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性があります。
PCOSとは、成熟しきってない小さな卵胞が複数作られ、排卵障害を生じる婦人科疾患のこと。
原因ははっきりとわかっていませんが、卵巣のホルモン分泌に異常があり、男性ホルモンが優位に働いていることが関与しているといわれています。
多毛・ニキビ・肥満などの男性化兆候や、無月経などの月経異常が主な症状ですが、アジア人の場合は普通体型の女性が患っていることも少なくありません。
気付かぬうちに不妊症の原因になることもあるため、自覚症状の有無に関わらず、AMH検査をしておくと安心です。

参考:多嚢胞性卵巣症候群の血中性腺ホルモンとAMHを用いた診断精度の向上に関する研究
参考:多嚢胞性卵巣症候群の調査研究、患者会との連携に関する研究(PDF)

AMH検査の費用


2022年4月から不妊治療が保険適用となり、これまで経済的な理由で不妊治療を諦めていた方も、幅広い治療を選択しやすくなりました。
これまで自由診療扱いで全て自費だった検査や治療は、年齢などの条件に合致すれば3割負担となります。
AMH検査も保険適用の対象となっていますが、検査の目的によっては自由診療(全額負担)となるため、注意が必要です。
AMH検査が保険適用となるのは、高度不妊治療を行う際の卵胞刺激法の薬剤投与量の調整のために実施する場合に限ります。
卵巣予備能を把握するために行うAMH検査は自費となり、費用は約5,000円〜7,000円。
医療機関によって異なるため、事前に確認しましょう。

参考:厚生労働省「不妊治療による取組」(PDF)

出典:Canva

AMH検査キットを活用する方法も

AMH検査に興味があっても、ハードルが高いと感じたり婦人科に行く時間がなかなか確保できなかったりする方も多いのではないでしょうか。
そうした多くの女性の要望に応えて、2019年に国内初となる厚労省認可のAMH検査キット「F check」が販売開始となりました。
自宅で採取した0.1mlの血液を検査センターに郵送するだけで、Web上からAMH値を気軽に把握できると注目を集めています。
卵巣のセルフチェックができるAMH検査キット「F check」は、公式サイトから購入可能で、税込み21,978円。
日本産科婦人科学会によると、妊活を始めて約1年経っているのに妊娠に至らない場合のことを「不妊症」と定義しています。
最近では、年齢を考慮して一定期間を待たずに不妊治療を始める人も少なくありません。
AMHは、不妊治療の治療方針を選択する際の指標の一つであり、妊活を考えているなら早めに調べることが望ましいです。
年齢や外見では判断できない卵巣予備能を把握して、不妊治療にチャレンジできるタイムリミットを知りましょう。

参考:日本産科婦人科学会 不妊症
参考:F check(卵巣年齢チェックキット)

体の状態を知り悔いのないライフプランを


AMH値は、妊娠のしやすさとは無関係であり、卵子の質までは把握できません。
しかし、減り続ける卵子の数を予測し、不妊治療にステップアップした際の採卵数や治療にかかる期間の目安を知ることができます。
自然妊娠できるタイミングは月にたった一度の排卵日のみであり、加齢によって妊娠率が下がることは避けられない事実です。
もっと早くに対策していれば‥と後悔しないためにも、女性のライフプランの重要な指標となるAMH検査を受けることを検討してみませんか。

Photo:YUKIE SUGANO